日本では、台風・集中豪雨・地震・津波などによって毎年のように多くの人命や財産が奪われています。中には、昔に比べて災害が増えたように感じる方もいるかもしれません。災害の「激甚化」が進んでいる、と言われることもありますが、実際はどうなのでしょうか。この記事では、「激甚化」という言葉を解説すると共に、実際の災害データをもとに、災害が激甚化しているのかどうかを検証します。
激甚化とは?
近年、気象災害や地震による災害が増え、さらに災害の規模や範囲が大きくなっていると感じている方も多いのではないでしょうか。
特に豪雨災害は毎年のように日本各地で発生し、メディアで「観測史上最大の雨量」という言葉を見聞きします。異常気象による災害が増えていると思う方もいるでしょう。東日本大震災あたりから、地震が多く発生しているように感じている方もいるかもしれません。
災害の規模や範囲が以前よりも大きく激しくなることを「激甚化」と呼びます。メディアでも盛んに使われている言葉です。
豪雨なら「異常気象によって激甚化が進んでいる」、地震なら「地殻変動によって激甚化が進んでいる」など、激甚化には何らかの理由があります。また激甚化と共に使われているのが「頻発化」という言葉で、こちらは災害の回数が以前より増えることを意味します。
激甚化も頻発化も実際に起こっているなら危惧すべき問題ですが、すべての災害で激甚化や頻発化が起こっているわけではありません。過剰に恐れないためにも、激甚化や頻発化の正しい知識を得ることが大切です。
激甚化は進んでいる?データで検証
気象・地震災害の激甚化についてデータをもとに検証していきましょう。
短時間豪雨
以下の画像は、1時間の降水量50mm以上の非常に激しい雨や猛烈な雨が1年間に発生した回数を示したグラフです。
引用:気象庁「全国(アメダス)1時間降水量50mm以上の年間発生回数」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html
2011年~2020年の平均年間発生回数は、1976年~1985年の平均年間発生回数の1.5倍に増加しています。
また以下のデータによると、日降水量(1日の降水量)ランキングの上位20位のうちの12、最大1時間降水量ランキングの上位20位のうち9つが、2000年以降になっているのがわかります。
引用:気象庁「歴代全国ランキング」
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/rankall.php
2000年代になって20年ほどしか経過していないにもかかわらず、降水量ランキングに占める割合が大きいことから、集中豪雨は増えていると考えられます。
データからも短時間豪雨・集中豪雨は激甚化・頻発化していることが分かります。
台風
以下のグラフは、1990年から2020年までの台風発生数、接近数、上陸数です。
図表作成:田頭 孝志
データ参照:気象庁「台風の順位」
https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/ranking/ranking.html
年によって台風の発生数・接近数・上陸数は異なります。台風は全体的に増えているとは言えません。
次に台風の上陸時の強さランキングをご覧ください。
台風の上陸時の強さランキング
図表作成:田頭 孝志
データ参照:気象庁「中心気圧が低い台風 (統計期間:1951年~2020年第23号まで)」
https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/ranking/air_pressure.html
台風の上陸時の気圧ランキングの上位はすべて1900年代であり、今より昔の方が強い台風が多かったことがわかりますね。
「台風が増えた、台風の被害が多くなった」と感じるのは、台風が激甚化・頻発化したのではなく、ネット普及によって台風の情報や台風の被害がリアルタイムで入手できるようになったことが影響していると考えられます。
地震発生数
以下のグラフは2000年から2018年にかけて日本や日本付近で発生したマグニチュード5以上の地震を示しています。
図表作成:田頭 孝志
データ参照:気象庁「1.地震」
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/bulletin/eqdoc.html
2011年に地震発生数が突出していますが、これは東日本大震災の余震が含まれています。2012年以降は東日本大地震前の水準に戻っていることから、地震に激甚化や頻発化の兆候は見られません。
地震が増えたと感じるのは、東日本大震災が発生した年に規模の大きな余震が多発したことが理由として考えられます。今後も、大地震が発生したら同じように大きな余震が一時的に増える可能性はあります。
激甚化が進んでいるのは短時間豪雨
台風や地震については激甚化しているデータはなく、年による差が大きい特徴があります。
データが示すのは、激甚化は梅雨の大雨や夏のゲリラ豪雨など、主に短時間豪雨で進んでいることです。
短時間豪雨が増えているのは、日本の年平均気温が上がっていることに関係しています。
以下の画像は、1898年から2020年にかけての日本の年平均気温偏差です。
引用:気象庁「日本の年平均気温偏差の経年変化(1898〜2020年)」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html
特に1990年代以降は気温の上がり方が顕著であり、100年間で気温は約1.26℃上昇しています。気温が上昇すればするほど、雨のもとになる水蒸気を大気がより多く含めるので、雨量も多くなります。
今後も気温が上がっていくのであれば、豪雨災害はさらに激甚化することが予想されます。
まとめ
災害の「激甚化」についてデータで確認すると、激甚化しているのは主に地球温暖化に伴う集中豪雨でした。台風や地震に増加傾向はありません。
しかし、災害が激甚化しているかどうかにかかわらず、今後も災害に巻き込まれるリスクは、いつでも誰にでもあります。東日本大震災から10年になります。どんな災害が起きても自分や家族の命を守れるように、正しい防災の知識を身につけましょう。
<執筆者プロフィル>
田頭 孝志
防災アドバイザー/気象予報士
愛媛県在住。防災士。不動産会社の会員向けの防災記事、釣り雑誌のコラム、特集記事を執筆。BS釣り番組でお天気コーナーを担当。自治体、教育機関、企業の防災マニュアル作成に参画。講演も多数。
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