「冒険・防災・アウトドア」に共通のイメージを持とう|野口健 アルピニスト①

まず「自宅キャンプ」を楽しんで、防災用品を使いこなそう

災害時はアウトドアと同じ環境になるといってもよいでしょう。もちろん、自治体の避難所も開設されますが、東京などの都心部は、夜間と昼間の人口に差があり、災害の発生時間帯によっては全員がすぐに避難所に入れない可能性もあると考えています。そのような事態を想定して自宅の庭など外で、数日間は過ごせる準備もしています。ふだんからこのような心構えでいれば、災害時に避難所に入れなくても慌てなくなります。

(野口健事務所提供:左からテント、タープ、ロープ)

僕自身、登山でヒマラヤに行く時には、酸素ボンベが足りなくなる事態や天候の悪化による厳しい寒さなど最悪の状況をイメージしながら準備をしています。冒険と防災、災害に対する意識は共通しています。災害は必ず起きます。絶えず状況をイメージすることが大切です。

人間は「不意打ち」の状況には弱くなるものです。日本では災害発生後の3日ないし5日、自力で生き延びることができれば何とかなります。とにかく最初の3日を自力で生き延びましょう。そのためには食糧と水も必要ですね。僕はレトルト食品や缶詰、アルファ米など、アウトドア用の食品を常備しています。火を起こすためのガスバーナーもあります。

もちろん、テントをはじめキャンプ用品がそろっていれば、3日くらいは問題なく過ごすことができます。寝袋も春夏秋用と厳冬期用の2種類があれば安心です。懐中電灯は便利なようでいて、慌てると落とすことがあり、自分の目線と懐中電灯を持つ手の方向が一致しない時も少なくありません。これに対してヘッドライトは必ず目線の方向を照らし、両手も使えるので非常時にも安心です。

(野口健事務所提供:自宅に常備しているレトルト食品)

こうした防災に役立つ道具も日ごろから使っていなければ、いざという時に焦って上手に使うことができません。日常生活の中でアウトドア用品を使いこなすことも大切です。一度もテントを張ったことがない人は、非常時にも張ることはできないでしょう。ただ、災害に備えるためだけにテントを購入するのは少しハードルが高いかもしれません。ご家族の場合は、お子さんと一緒にアウトドアを楽しむ目的でテントをそろえてみてはいかがでしょうか。

まずは道具に慣れ親しむために「自宅キャンプ」をおススメします。自宅の庭やベランダにテントを張って「自宅キャンプ」を楽しんでみてください。

②「被災地に寝袋とテントを届けよう」 僕に決意させたヒマラヤ体験

<プロフィル>
野口健(のぐち けん)
1973年アメリカ・ボストン生まれ。亜細亜大学国際関係学部卒業。植村直己氏の著書「青春を山に賭けて」に感銘を受けて登山を始める。1999年エベレスト(ネパール側)の登頂に成功し、7大陸最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立。エベレストや富士山の清掃活動を行うほか「野口健環境学校」で子どもたちの環境教育に取り組む。ネパール・サマ村の子どもたちのために学校を作るプロジェクトや2015年4月のネパール大地震、2016年4月の熊本地震でも支援活動を行う。熊本地震では、岡山県総社市などの自治体や多くのボランティアの協力を得て熊本県益城町にテント村を開設した。著書に「震災が起きた後で死なないために」 (PHP新書) など。

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