災害の停電にEV活用。メーカーと自治体の協定続々

写真説明:後方のPHVから電力を供給したデモンストレーション(2020年11月19日、川崎市役所で)

「台風15号」後 締結1年で6倍に

災害による停電の際に、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの電動車を「電源」として活用しようという動きが広がっている。自動車メーカー側と自治体が災害時の電動車派遣協定を次々と結んでおり、締結件数はこの1年で6倍近くに増えた。国も派遣を支援する仕組み作りを検討している。

湯沸かしなどの電源に 1台で10日分の電力

川崎市役所で2020年11月19日、車につながれた電気ポットが湯気を立て、電子レンジでおにぎりが温められると、見学者から「これは便利」と声があがった。

車は、ガソリンと電気の両方で駆動し、家庭で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)。レンジなどは車内に2か所あるコンセントに延長コードでつないだ。

この車は1台で一般家庭の最大10日分の電力を供給でき、四輪駆動で被災地も走りやすい。2020年7月の九州豪雨では、メーカーの三菱自動車が熊本県人吉市に3台を派遣し、災害現場で使う電動カッターの電源などに利用された。

川崎市はこの日、災害時に三菱から電動車を派遣してもらう協定を締結し、性能を披露した。災害時に避難所などの電源に活用するという。市は2019年10月の台風19号で浸水や停電被害を受けた。担当者は「市民の安心感につながる」と話す。

大規模停電の千葉で50台以上が出動

被災地で電動車を電源に使う取り組みは2011年3月の東日本大震災で注目され始めた。

特に、千葉県を中心に大規模な停電が起きた2019年9月の台風15号では、日産自動車は電気自動車50台以上を木更津市などに派遣し、スマートフォンの充電や高齢者施設での家電製品などに使われた。保育園へ電気自動車を届けた根岸準・リージョナル事業推進マネージャーは「ラジカセの音楽を聴いて喜ぶ園児を見て、貢献できたと実感した」と語る。

台風15号の後、自動車メーカーや販売店と自治体が派遣協定を結ぶ動きが活発化。トヨタ、日産、三菱、ホンダ(系列会社含む)が結んだ協定の件数は、2019年9月までは48件だったが、2020年12月現在で280件以上に増えた。自動車メーカーもPRにつながるとして力を入れており、三菱は2022年度までに、全都道府県で少なくとも一つの自治体と協定を結び、全国をカバーできる体制を作るとしている。

使い方周知のため国がマニュアルを作成

一般社団法人・次世代自動車振興センターによると、2020年3月末現在で、電動車の国内保有台数は計約1094万台にのぼる。

身近な存在になったものの、電源としての使い方を知らないユーザーはまだ多い。台風15号で電動車を千葉県内に派遣したメーカーによると、停電で困っている家庭が電動車を所有していても使い方を知らなかったケースがあったという。

台風15号では、メーカーが自治体に電動車を届けても、自治体側が必要な場所を把握しきれておらず、待機を余儀なくされる事態も起きた。

こうしたことから、国土交通省は2020年7月、一般ユーザーや自治体向けに活用マニュアルを作成。また、2021年度は、派遣可能なメーカー各社の販売会社と、必要とする自治体をむすぶ仕組みを構築する方針だ。

国交省マニュアル・EV利用の注意点

国土交通省が作成した活用マニュアルには様々な注意点が記載されている。

平らな場所で、ギアはP

大切なのは、使用中に車が動き出さないよう、平らで十分スペースのあるところに止めることだ。必ずギアをパーキングに入れ、補助ブレーキも利かせる。

ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は、バッテリーの充電量が少なくなると、充電のために自動的にエンジンが始動する。排ガスが充満しないよう、換気の悪い場所での使用は避ける必要がある。

たこ足配線は厳禁

発熱する可能性があるため、たこ足配線は厳禁だ。車両の状態によっては、出力が途絶えることがあり、医療機器には使用しない。

車内に家庭用コンセントがない車種は、別売の変換器を車に取り付ける必要がある。

(読売新聞 2020年12月22日掲載)

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