大分・別府モデル「災害弱者を取り残さない」取り組み

写真説明:災害弱者への支援はどこの自治体にも課題だ。住民参加で避難訓練も行われている(2020年7月、大分県佐伯市で)

東日本大震災では、死者の約6割を高齢者が占めた。目や足が不自由な人たちの死亡率も高かった。こうした災害弱者を取り残さない「インクルーシブ(包括的)防災」に大分県別府市が地域と取り組んでいる。

災害時の「個別避難計画」作り

事業は2016年度から始まった。まずは当事者一人一人の事情に寄り添い、避難を手伝う人や避難場所、経路などを事前にまとめておく「個別避難計画」を策定する。訓練で計画通りに避難できるかを検証し、改善していくのが一連の流れだ。

日本財団の支援を受けて一般社団法人「福祉フォーラムin別杵速見実行委員会」が始めた。2019年度からは市が予算を組み、委託されたフォーラムが続けている。

熊本地震でわかったこと

事業初年度の2016年4月16日、熊本地震の本震で別府市は震度6弱を観測した。最大5691人が避難したが、翌月に公表された障害者101人へのアンケートでは、約7割が避難をしていなかった。「動けなかった」「1人では無理」「(避難先で)迷惑をかける」。避難計画の必要性がはっきりとした。

熊本地震から3か月後、障害のある当事者や民生委員らが市内に集まって意見交換した。「理想を言っても、やり手はいない」「保護者や家族がやるべきだ」といった負担増を懸念する参加者から声が上がると、拍手も起こった。フォーラムの理事で車椅子で生活する河野龍児さんは「ショックだったが、現実を受け止め、まずは一部地域から始めていこうと決めた」と振り返る。

自治会長はこう考えた

約400世帯が加入する古市町自治会の後藤敏之会長の考えは違った。「いざという時に助けが必要な人がいるなら、事前に知っておきたい」。地域は別府湾沿いにあり、南海トラフ巨大地震では4mを超える津波が想定されている。近くに社会福祉法人「太陽の家」もあり、そこで働く障害者も住む。市から避難訓練を提案されると、当事者と保護者、日頃のケアプランを作る福祉専門職を交えて準備を進めた。

写真説明:自治会内の避難場所を示した地図を指す後藤会長(2021年3月3日、別府市の古市町公民館で)

車いすの坂道対処法

事前に「坂道で車いすを押して動かすのは難しい」という意見が出たため、複数で引っ張れるようにロープやリヤカーを準備。2017年1月の訓練は無事終わった。市防災危機管理課の村野淳子さんは「訓練をやれば地域のコミュニケーションが深まる。その積み重ねが地域力向上につながり、事業を成功させる鍵になる」と語る。

市によると、障害者手帳を持つ人は約8800人で、2021年2月時点の高齢化率は3割を超える。市の人口約11万5000人のうち、計画を策定する対象は1万人に上る可能性があり、達成はまだ遠いのが現状だ。

総務省消防庁の統計(2019年6月時点)によると、個別避難計画の作成を終えたのは1720自治体のうちの12%。県内では姫島村だけで、残る17市町は「作成中」としている。

こうした中、個別避難計画の策定を市町村の努力義務とすることを盛り込んだ「災害対策基本法」の改正案が今国会で成立した。他自治体に先駆けて試行錯誤を続けてきた「別府モデル」の行方に関係者の注目が集まっている。

(読売新聞 2021年3月14日掲載 連載 「いのちを守る」下 大分支局・古野誠、鶴田日出美が担当しました)

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