災害時の自治体BCP 策定後も優先業務見直しで日々改善


写真説明:BCPの実施手順書で非常時の行動を確認する職員ら(愛知県春日井市役所で)

業務継続のためだが、策定後に課題浮上も

5年前の熊本地震では、庁舎が使用不能となった熊本県内の市町のうち、3市町が業務継続計画(BCP)を策定しておらず、住民に罹災(りさい)証明書の発行ができないなどの影響が出た。自治体のBCP策定は進んできたが、実態に合わないことが判明して見直す自治体も出てきている。

Case 熊本地震時の人吉市

熊本地震の本震で震度5弱を観測した人吉市の庁舎は倒壊の危険性が高いとして閉鎖された。老朽化が進み、2001年に行われた耐震診断では震度5強で倒壊する危険性が高いとされていた。市は災害対策本部としての機能を維持できないと判断していたが、BCPは策定していなかった。

地震後、旧庁舎は解体され、新庁舎の完成(2023年度予定)までは3か所の市有施設に分散移転することになり、BCPも策定された。

2020年の豪雨時で再び…

しかし、2020年7月の豪雨では、災害対策本部が置かれた仮本庁舎は周辺一帯が浸水したことで数時間にわたって孤立状態となった。被害の把握に手間取り、初動に遅れが出た。

仮本庁舎は球磨川の浸水想定区域内に立地。BCPでは災害対策本部を設置できない場合には他の庁舎を代替施設とすると定めていたが、豪雨では設置後に身動きがとれなくなった。同市防災安全課は「緊急的に移転できる市有施設はここしかなかった。想定最大規模の洪水までは見越していなかった」と説明する。

Case 大阪北部地震後の大阪市

2018年6月の大阪北部地震で、最大震度6弱を観測した大阪市では、災害後にBCPの見直しを行った。地震当時の計画では、災害から1時間後に必要な職員数は、全職員の約4割にあたる約9000人としていたが、実際に参集できたのは約6800人にとどまった。そのため、優先業務の見直しなどを行い、現行計画では必要数を約7400人に減らしている。

自治体BCPのポイント「重要6要素」

東日本大震災をきっかけに、国は全国の自治体にBCPの策定を求めており、消防庁の調査によると、2020年6月時点で全市町村の94・4%がBCPを策定している。東海3県でも、三重県紀宝町を除く124市町村が策定を済ませている。ただ、内容は必ずしも十分とは言い切れない。

国は自治体のBCPに「重要6要素」を掲げている。〈1〉首長不在時の代行順位〈2〉本庁舎が使用できなくなった場合の代替庁舎の特定〈3〉備蓄品――などで、東海3県ではすべてを満たしているのは約半数の64市町村にとどまっている。

◇東海3県の市町村の「BCP重要6要素」策定状況(消防庁まとめ)

※対象は紀宝町を除く124市町村

Case 愛知県春日井市

BCPの実効性をあげる取り組みもある。愛知県春日井市は、BCPだけでは非常時の職員の具体的な行動につなげられないとして、約540の災害時優先業務に関する「実施手順書」を全部署で策定している。

電気、ガス、水道などライフラインが止まった場合、それぞれの業務に必要な職員、資機材などを挙げ、応援職員でも対応できるよう、何がどこに保管してあるかなどを、図入りでA4判1枚にまとめている。市民安全課は「担当職員が災害時にも動けるとは限らない。不慣れでもどう動くべきかを明確にできた」とする。

Case 徳島県

徳島県内では地域別の研修会で各市町村のBCPを学び合い、大規模災害時に隣接自治体が代替庁舎を提供するなどの助け合い体制作りを目指している。湯浅恭史・徳島大助教(危機管理)は「人的・物的資源が限られた小さな市町村ほどこうした柔軟な発想が必要」と指摘している。

(読売新聞 2021年4月22日掲載 編集センター・内田郁恵)

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