写真説明:九州豪雨では熊本・鹿児島両県を始め、各地で甚大な被害が出た(熊本県人吉市で、2020年7月4日撮影)
文科省初調査「1万1175校」に風水害の脅威
全国の公立の幼稚園や小中高などの3割にあたる1万1175校が豪雨時に浸水や土砂災害の恐れがある区域にあることが、文部科学省の初めての調査で明らかになった。義務づけられた避難の計画を作成していない学校も多く、子供たちを守るための対策が急務だ。
豪雨災害で学校被災相次ぐ
近年は豪雨災害で学校の被害が相次ぐ。文科省によると、東日本を襲った2019年の台風19号では、公立小だけでも53校が浸水。2020年の九州豪雨では、福岡県の小学校が浸水し、児童や住民ら約100人が一時、校舎に取り残された。
被害を受け、文科省が全国の公立学校計3万7374校に行った調査(2020年10月時点)では、洪水などによる「浸水想定区域」に7476校(全体の20.0%)、崖崩れなどの恐れがある「土砂災害警戒区域」に4192校(同11.2%)があった。
これらの学校はいずれも、災害時の避難に誘導が必要な人が利用する「要配慮者利用施設」と市町村に指定されている。2017年の水防法などの改正で、同施設には避難場所や経路を示した「避難確保計画」の作成や避難訓練の実施が義務づけられた。だが2~3割ほどの学校は計画が未作成、または訓練が未実施で、文科省は「法改正への認識不足があったかもしれない」とみる。
■災害が指定される区域にある公立学校の割合が高い都道府県とその対策
浸水想定区域
土砂災害警戒区域
説明:2020年10月時点。単位は%。区域内にあり、要配慮者利用施設と指定された学校。文部科学省資料を基に作成。
さまざまな地域事情
そもそも山や川の多い日本では、完全にリスクを避けて学校を設置するのは難しい面がある。土砂災害警戒区域にある学校の割合が35.4%と全国最多だった広島県は、県土の7割が山地で、「移転は現実的ではない」(県教委)。
災害が想定される区域が見直され、学校が区域に入るケースもある。浸水想定区域の計画作成が64.7%にとどまった福井県では2019年、より大きな水害を想定して区域を見直した結果、「区域内の学校が思った以上に多くなった」(県教委)という。それだけに備えが重要となる。浸水想定区域の計画作成と訓練実施が100%だった徳島県では、県が市町村に個別に計画作成などを促していった。
そもそも学校は災害時の避難所
また、多くの学校は災害時に避難所となる。調査では、建物内や電気設備への浸水対策を行った学校は約15%だった。対策は義務ではないが、浸水すると避難所として機能せず、学校再開にも時間がかかる。
文科省は従来、地震対策を優先して進めており、今後は水害・土砂災害対策も加速させる考えだ。片田敏孝・東京大特任教授(災害情報学)は「最優先すべきは子供の命を守り抜くこと。計画の作成などをしていない学校は自覚が足りないと言わざるを得ない。大雨が相次いでおり、学校側は災害への対応力を高めていくべきだ」と指摘する。
(読売新聞 2021年6月19日掲載 教育部・伊藤甲治郎)