11年目の福島原発事故 相次ぐ地震で施設の備えを再点検(前編)

写真説明:東京電力福島第一原子力発電所の1号機原子炉建屋(福島県大熊町で2021年2月4日撮影)

廃炉作業続く福島第一原発の耐震性は?

東京電力福島第一原子力発電所の事故から11年目を迎えた。前例のない廃炉作業が進む中、東北沖ではいまも地震が絶えず、大破した施設の耐久性など不安要素は多い。30年後を完了目標とする廃炉期間中、より激しい揺れに見舞われるリスクもあり、地震に対する備えの再点検が必要だ。

2月に震度6弱の揺れ

2021年2月13日午後11時7分、福島県沖でマグニチュード(M)7・3の地震が発生し、福島第一原発が立地する福島県大熊、双葉町を震度6弱の揺れが襲った。

「数十秒か1分か、下から突き上げるような強い揺れが長く続いた」。当時、原発内で宿直勤務中だった東電社員は振り返る。

施設の損傷具合

事故で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の冷却設備などに大きなトラブルはなかったと聞き、胸をなで下ろしたという。放射性物質を含む貯水タンクは最大19cm移動した。地震時にずれ動いて揺れを吸収する仕組みが働いたためで、タンクの倒壊や破損は免れた。

この地震を含め、震災後、大熊、双葉町のいずれかで震度5弱以上を観測した地震は計10回に上る。

写真説明:水素爆発で破損した建屋がカバーで覆われた3号機(福島県大熊町で2021年2月4日撮影)

政府の地震調査委員会による長期評価では、福島県沖でM7~7・5程度の地震が30年以内に起きる確率は50%程度。廃炉期間中に再度、2月の地震と同等かそれ以上の揺れに襲われる恐れもある。原発北西の「双葉断層」が100年以内に活動する確率はほぼゼロだが、動けばM6・8~7・5程度とされる。

原子炉建屋の耐震性

このため東電は、東日本大震災のようなM9級の巨大地震が福島県沖で発生するといった厳しい条件で、原子炉建屋の耐震性を検証。事故で一部損傷した壁や梁(はり)が建物を支える力を無視しても、倒壊する恐れはないと結論づけ、原子力規制委員会もこれを認めた。

原子炉建屋以外は…

とはいえ、地震で問題になるのは原子炉建屋の耐震性だけではない。

2月の地震では、1、3号機の原子炉底部にたまる燃料デブリの周囲を満たす冷却水の水位が下がった。原子炉の配管に生じていた破損部が広がり、漏れ出る水が増えたとみられる。

◆2月の地震(M7.3)の主な影響

説明:配管の破損部が拡大。冷却水の水位が最大約120㎝低下

説明:配管の破損部が拡大。冷却水の水位が最大約50㎝低下

燃料デブリの熱は当初に比べて大幅に下がっており、水位低下がすぐに大きな問題にはならない。だが、地震のたびに水漏れが悪化すると、冠水させて燃料デブリを取り出す工法が一層困難になり、廃炉の選択肢が狭まる恐れがある。

建屋内の使用済み核燃料は

原子炉建屋内のプールに残る大量の使用済み核燃料も懸念材料の一つだ。

事故を起こした1~4号機のうち、3、4号機のプールからの撤去は完了した。2号機には核燃料が残るが、水素爆発を起こさなかったため建屋上部が壊れておらず、リスクが比較的小さいとされる。

問題は1号機だ。水素爆発の影響で建屋にがれきが多く残り、最上階に設置されていた重さ約160tのクレーンもプールに覆いかぶさるように崩落している。地震でがれきやクレーンの一部が落下すれば、プールに残る392本の核燃料を傷つける恐れがある。

写真説明:水素爆発で建屋上部の壁が吹っ飛び、鉄骨がむき出しの1号機(福島県大熊町で2021年2月4日撮影)

想定外への備えはポンプ車で

このため、東電はクレーンを支柱で支え、プールの水面を「浮き」で覆うなどの対策を講じた。想定外の事態に備え、常時待機しているポンプ車で注水できる体制も整えている。

滝口克己・東京工業大名誉教授(コンクリート複合構造)は「今後、燃料デブリを回収するには、建屋に新たな装置を設ける必要がある。それには建屋がしっかりしていることが大前提。継続的に確認していく必要がある」と指摘する。

人が立ち入れない環境下という制約

原子炉や建屋内の損傷を直接確認することも、高い放射線量のため人が立ち入れない場所が多い現状では難しい。このため、地震時に得られる様々なデータを解析し、間接的に損傷状況を推定することが不可欠だ。

だが、2月の地震では、3号機建屋の地震計2台が故障したまま放置されていたことが発覚。建屋の揺れ方から損傷程度を推定するための貴重なデータがとれなかった。

恒久的な対策をいつどのように

角山茂章・元会津大学長(原子力安全工学)は「福島第一原発には応急的に作られた設備がいまだに多い。恒久的な設備に置き換えていくことが急務だ。先が見えない廃炉作業による士気の低下も心配で、東電は気を引き締め直さなければならない」と強調する。(後編に続く)

(読売新聞 2021年6月13日掲載 科学部・大山博之、天沢正裕)

 11年目の福島原発事故 相次ぐ地震で施設の備えを再点検(後編)

※)後編では、福島第一原発の地震対策について専門家はどう見るのか、また廃炉作業の最近の動きを紹介しています。

 

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