11年目の福島原発事故 相次ぐ地震で施設の備えを再点検 (後編)

写真説明:東京電力福島第一原発の3号機原子炉建屋から望む4号機原子炉建屋。津波で流されてきたがれきが残されていた。(福島県大熊町で、2021年2月4日撮影)

宮野広・福島第一原発廃炉検討委員長はこう考える

日本原子力学会で福島第一原発廃炉検討委員会の委員長を務める宮野広・元法政大客員教授(原子炉システム学)=写真=に、地震対策や廃炉の課題を聞いた。

放射線量が高く詳細把握が難しい

原子炉や原子炉建屋の損傷状況については学会でも検討し、東日本大震災の揺れや水素爆発で耐震性に大きな影響はないと評価している。だが、放射線量が高いため、損傷の詳細を把握するのは難しい。長期の廃炉作業に伴う経年劣化や、地震の影響などを確認する仕組みが必要だ。

接続部は構造的に弱くなりがち

原子炉以外の設備にも一定の耐震対策が講じられているが、例えば、汚染水に含まれる大半の放射性物質を除去できる「多核種除去設備」(ALPS(アルプス))のような放射線量が高い設備は、被災すればリスクが高い。新たな設備に十分な耐震性があっても、既存設備との接続部は構造的に弱くなりがちなので、特に注意が必要だ。

廃炉に向けた技術開発の洗い出しが急務

いずれにせよ、今後の廃炉作業で必要になる技術開発の洗い出しが急務といえる。この10年で一定の進展は見られたが、このままのペースでは、目標とする2050年頃の廃炉完了は果たせないだろう。技術開発に注力するとともに、その進展に合わせて従来の計画を随時、柔軟に見直していくことが求められる。

廃炉作業の最近の動き

① 21/3/22 放射線量の高いゲル状の塊が見つかる

事故対応で生じた放射性廃棄物を保管するコンテナの跡地で、毎時13mSv(ミリ・シーベルト)の放射線を出すゲル状の塊(縦約90cm、横約30cm)が見つかった。

写真説明:見つかったゲル状の塊(東京電力提供)

この線量は、数時間浴びると一般人の皮膚の年間被曝(ひばく)限度に達する大きさだ。放射性物質を含む水などが、腐食したコンテナから漏れ出たとみられる。東電がコンテナ約8万5000基を調べたところ、約4000基は中身の記録がなく、確認を進めている。

写真説明:ゲル状の塊が漏れ出たコンテナの内部(東京電力提供)

② 21/4/13 処理水の海洋放出、政府が方針決定

汚染水に含まれる放射性物質のうち、現在の技術では除去できないトリチウム以外を浄化した「処理水」について、政府は海洋放出する方針を決めた。

海水で薄めてトリチウム濃度を十分に下げ、2023年春の放出開始を目指す。東電は22年秋に処理水のタンクが容量に達するとしていたが、2021年5月にタンクの増設計画を公表。放出開始までは満杯になるのを避けられるとの見通しを示した。

写真説明:敷地内にタンクが立ち並ぶ東京電力福島第一原子力発電所(2021年4月7日撮影)

③ 21/5/21 土のう回収に向け、ロボットで調査

敷地内の建屋地下にたまる汚染水に沈む土のうを回収するため、ボート型ロボットを用いて調査を始めた。

事故直後に大量投入された土のうには、放射性物質の吸着材「ゼオライト」が詰まっており、放射線量が極めて高い。東電は、今回の調査で土のうの位置や放射線量などを把握し、2023年度中に回収を始めることにしている。

写真説明:調査に使われたボート型ロボット(東京電力提供)

(読売新聞 2021年6月13日掲載 科学部・大山博之、天沢正裕)

11年目の福島原発事故 相次ぐ地震で施設の備えを再点検(前編)

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