和歌山県・仁坂知事がワクチンを語る「決め手と確信し準備した」


新型コロナウイルスワクチンを巡る現状や課題について、和歌山県知事の仁坂吉伸氏(=写真)に聞いた。

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自治体や医師らと早期に連携した

新型コロナウイルスのワクチン接種について、和歌山県は65歳以上の高齢者への2回目の接種率が既に40%を超え、順調に進んでいると言われる。接種が早い理由は「ワクチンが決め手と確信し、早くから準備したこと」に尽きる。

◇ワクチン接種の都道府県別順位

※政府集計。6月30日時点。数字はいずれも2回目接種

ワクチンに着目したきっかけ

ワクチンの重要性を実感したのは、イスラエルで接種が進み、感染状況が一気に改善したことを知った時だった。コロナとの闘いには、最後はワクチンで挑むしかない、と感じた。

昨年(2020年)12月に県庁に組織横断のチームを作り、接種を迅速に進めるには何が必要か、何度も議論を重ねた。接種を担う県内30市町村とも早くから連携した。県職員に「ワクチンが来たら、すぐ打つぞ。グズグズするな」とハッパもかけた。

和歌山県の地域特性

和歌山県は、個別接種と集団接種を組み合わせる手法をとった。和歌山市は人口10万人あたりの診療所数(2019年)が118・8で、全国平均の81・3を大きく上回る。強みを生かそうと個別接種を選んだ。和歌山市長が医師らに熱心に働きかけ、最終的に市内医療機関の約6割にあたる280施設が接種に協力した。

一方、中山間地域では個別接種はできず、集団接種しか選択肢はない。隣接自治体と生活圏を共有する地域も多い。国には市町村をまたいで接種する必要性を訴えた。単独で接種を準備するのが厳しい小規模自治体には県が支援にまわった。肝心なのは県内一律ではなく、地域の実情に応じて柔軟に対応することだ。

スタート後の所感

万全な態勢で待ち構えたからこそ、4月12日からのスタートダッシュに成功したと思う。

写真説明:和歌山では人口比率で診療所が多い地域特性を生かし、接種率を高めた(和歌山市の伊奈胃腸科で)

だが、接種が進み、思わぬ落とし穴があった。ワクチン不足だ。

主な原因は、政府が人口などに基づき、都道府県に平等にワクチンを配ったからだ。これでは接種率が全国1位になると、在庫は最も少なくなる。日本全体で接種の加速を考えれば、早く打てる自治体に多くのワクチンを回した方がいいのは、当然ではないか。

自ら動いた

政府が考えた「平等」をただそうと、5月下旬、河野行政・規制改革相に会い、和歌山県へのワクチンの追加配分を要請した。すると、接種率が上位だった5県への追加配分が認められた。この点は、菅首相や河野氏の決断は速かった。

菅首相は高齢者への接種を7月末に完了させる目標を表明した。目標達成は、和歌山県には正直、難しくなかった。総務省官僚が私に電話で「7月末までの完了は大丈夫か」と聞いてきた時は、「出来ます。それよりワクチンをきちんと配ってください」とやり返したこともあった。

政府の対応と知事の責務について

政府の対応の遅れは、ワクチン入手の難航が始まりだったのではないか。政府は、昨年(2020年)から何をしていたのかと憤りを感じる。準備した自治体にワクチンがなかなか届かなかった印象が強い。国は経緯を検証し、今後の教訓としてほしい。

反面、ワクチンを含め、新型コロナウイルス対応で「国が詳細な基準を示すべきだ」と、責任を政府に押しつける都道府県知事が多いのには違和感を感じる。ワクチンの打ち手が「足りない」と訴える自治体は、本来やるべきことをせず、怠けているのではないか。行政が普段から医師と連携し、真剣に頼めば、危機的状況では医師らも協力するはずだ。医師の側も率先して接種に協力すべきだろう。

新型コロナ対応がさらけ出したこと

新型コロナ対応は、自治体の実力をさらけ出す機会にもなった。国がやるべきことは、ワクチン確保や、ワクチン接種の基本的なルール作りなど、国でしか出来ないことにとどめるべきだ。都道府県のトップである知事が大きな責任を伴うことも自覚しなければならない。

仁坂吉伸氏<プロフィル> 経済産業省製造産業局次長、駐ブルネイ大使などを経て、2006年に知事に初当選。現在4期目。2020年には2代目の関西広域連合長に就任した。東大卒。

(読売新聞 2021年7月4日掲載 政治部・大槻浩之)

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