九州豪雨で球磨川が氾濫した熊本・人吉市長が語る災害への備え


「想定外を平時から想定する」

近年相次ぐ豪雨災害から、どう身を守ればいいか。2020年7月の九州豪雨で甚大な被害が出た熊本県人吉市の松岡隼人市長(=写真)に聞いた。

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全世帯の5分の1が浸水した

九州豪雨では球磨川が氾濫し、人吉市で全世帯の5分の1に当たる3000世帯が浸水被害を受けた。市内で(災害関連死を除いて)20人が亡くなったことを重く受け止めている。発生から1年が過ぎ、自宅を修復し元通りの生活を送っている人もいれば、仮設住宅に住んで将来の見通しが立っていない人もいる。

写真説明:球磨川が氾濫し、冠水した熊本県人吉市の市街地(2020年7月4日)

2021年7月、静岡県熱海市で土石流災害が発生した。人吉市でも、今後も災害が起きるかもしれないという危機感を持って対応していきたい。

これまでの治水対策

人吉市はこれまで何度も水害に見舞われてきた。今生きている人が2020年の豪雨前に経験した一番大きな水害は1965年に起きた。市民の多くは「あれよりひどい水害は発生しないだろう」と考えていた。私自身も浸水被害はいつか起きると思ってはいたが、ここまで大きな被害は考えていなかった。

国や県、球磨川流域の市町村は「ダムによらない治水」に基づいた対策を実施してきた。1965年に経験した水害に基づき、毎秒5700tの水が市内を流れるとの前提で治水対策が行われてきたが、2020年の豪雨では同7400tに達した。

熊本県知事は2020年、最大の支流・川辺川での「流水型ダム」建設を容認した。自然の恩恵を受けながら安全安心を確保して生きるためには、流水型ダムが必要だと私も考えている。

市民の避難状況

被害を防ぐにはソフト面の対策も重要になる。豪雨後、市民約2000人にアンケートを行った結果、回答した6割が避難しなかったことが分かった。行政がいくら避難を求めても、市民から「役所がこんなことを言っているが何だろう?」と思われては意味がない。市民の意識と行政からの的確な情報発信がかみ合ってこそ、命を守る行動につながる。

市民に働きかけていること

2020年の水害で学んだことは、想定外をいかに平時から想定するかということだ。

豪雨を受け、市は災害時に取るべき行動を定めた「マイ・タイムライン」の作成を市民に働きかけている。日頃から想定外の事態も考慮し、命を守るためにいつ、どこに避難するか決めておくことが必要だ。

九州豪雨は新型コロナウイルスが流行する中で起きた初の大規模災害でもあった。夏場にもかかわらず、マスク着用の徹底をお願いせざるを得なかった。市民の協力を得て避難所での感染者をゼロにできた。冷房のない避難所もあったが、国の支援を受けて全ての避難所に冷房を設置した。

写真説明:新型コロナウイルス対策で、間隔が空けられた避難所の様子(2020年7月5日、熊本県人吉市で)

雨音で防災行政無線が聞こえない事例があり、防災ラジオの全戸配布も進めている。

2021年から災害時の避難情報の出し方が変わったことを受け、移動に時間がかかる高齢者に「高齢者等避難」を早めに出すとともに、「避難指示」を適切なタイミングで発令していきたい。

松岡隼人氏 <プロフィル> まつおか・はやと 人吉市議を経て、2015年5月から現職。現在2期目。43歳。

(読売新聞 2021年7月8日掲載 社会部・出水翔太朗)

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