災害弱者の避難計画!自治体に努力義務でもまだ「1割」を探る

(三重県熊野市社会福祉協議会提供)

5月施行の改正災害対策基本法に規定

改正災害対策基本法が2021年5月20日から施行され、災害時に自力避難が難しい高齢者や障害者らの「個別避難計画」の策定が自治体の努力義務となった。災害弱者の逃げ遅れを防ぐ狙いだが、策定を終えた市町村は約1割にとどまり、地域を巻き込んでの計画づくりが急がれる。

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自治体の策定状況

個別避難計画は、高齢者や障害者ら「避難行動要支援者」一人一人について、避難を支援する人や避難場所、避難経路を事前にまとめておくもの。国は、死者の約6割が高齢者だった東日本大震災を受け、2013年の災害対策基本法改正で、避難行動要支援者の名簿作成を市町村に義務づけたうえで、個別の避難計画作成も促してきた。

2020年10月時点の総務省消防庁の調査では、対象者全員分を策定した市町村は、9・7%。未策定の自治体は33・4%に上り、東海3県では、愛知の46・3%、岐阜の19%、三重の69%が未策定だった。

◆東海3県の市町村の個別避難計画策定状況

説明:棒グラフの数字は自治体数。2020年10月現在、総務省消防庁の資料を基に作成

策定が進まない理由

「未策定」とした自治体からは、「要支援者一人一人に支援者を確保するのは容易ではない」(三重県尾鷲市など)、「マンパワーが足りない」(同県鳥羽市など)、「一度作成しても、高齢の支援者が要支援者の側になることなども考えられ、更新作業が大きな負担になる」(愛知県南知多町)などの声があがる。さらに2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大も遅れに拍車をかけた。

総務省や内閣府による支援

努力義務化に伴い、国も計画づくりの後押しに乗り出した。総務省は2021年度から、地方交付税の対象に計画の策定費を加えて、市町村を財政支援する。内閣府は避難支援に関する指針を大幅に改定し、計画策定の進め方を詳細に説明。策定の優先度についての考え方や、支援者として組織や団体も計画に記載できることなどを盛り込んだ。

◆個別計画の記載内容例
(内閣府の指針を基に作成)
・要支援者の名前などの基本情報
・緊急時の連絡先
・「音が聞こえない」「歩行できない」など避難時に配慮が必要な事項
・ハザードマップなどで想定される自宅の被災状況
・避難支援を行う人の名前や連絡先
・避難場所や経路、避難場所までの危険箇所などの情報
・常備薬の置き場所やかかりつけ医、主治医の情報

対象者全員分を策定した自治体がゼロだった三重県は、調査で「未策定」だった20市町に作業が進まない理由の聞き取りを始めており、今後、進め方を共に検討していく。

進めている三重県熊野市の場合

動き出した自治体もある。三重県熊野市は2021年度、市内の新鹿町をモデル地区とし、個別避難計画の策定に乗り出すことにした。

7月4日、町内の1地区で開かれた会合には、市の防災と福祉の部署から職員各2人、地元からは自主防災会役員や民生委員ら7人が出席。要支援者名簿に掲載された十数人について、市が地元側から「この人は独居で支援が必要」「高齢者夫婦の一人が寝たきり」などの情報を得ながら、策定の優先度を検討した。

地元からは、「避難支援するうえで重要なことを、当事者が利用する介護事業者などにも聞いておきたい」などの意見も出た。市は当事者とも面会し、生活の現状を把握しながら、地元と支援態勢の構築を図る。

新鹿町では、民家がある地域の大部分が土砂災害警戒区域に指定されている。参加した自主防災会本部長の喜田裕一郎さんは「静岡県熱海市での土石流災害もあり、災害は人ごとではない。今後も必要な情報は市と共有し、支援者の決定も含めた個別計画策定に協力したい」と話した。

写真説明:2019年に三重県熊野市で、障害者や地元の人たちが参加して行われた防災訓練。個別避難計画を作ったら、訓練でもその内容を実践することが求められる(三重県熊野市社会福祉協議会提供)

跡見学園女子大の鍵屋一教授(福祉防災)の話
「個別計画策定には、自治体の防災と福祉の部署の連携が不可欠だ。その上で地域の福祉の専門家らにも協力を求め、当事者はもちろん地域も交えた話し合いをしながら作ることで、策定の過程がそのまま安心して暮らせるまちづくりにもつながる。さらに、地域の訓練などで計画の内容を実践することが重要だ」

(読売新聞 2021年7月8日掲載 津支局・中村亜貴)

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