(福岡県久留米市提供)
飼い主に避難をためらわせない
災害時にペットと一緒に過ごせる避難所を自治体が設置する取り組みが進んでいる。自然災害が頻発する中、ペットがいるために避難をためらう住民がいるからだ。ペットフードを備蓄するなど飼い主側の備えも不可欠で、熊本地震で被災者とペットを受け入れた獣医師は「ペットを救うことは、飼い主を救うことにもなる。共に避難できる場所を少しずつ増やす必要がある」と話している。
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福岡県久留米市の例
福岡県久留米市にある「久留米サイクルファミリーパーク」の一角。九州北部を中心に2021年8月11日に降り始めた大雨の際、飼い主がペットと共に過ごせる専用の避難所が開設された。避難スペースは間仕切りで囲われ、プライバシーも守られる。17日までに犬や猫、ウサギを連れた市民らが最大で12世帯22人避難した。
避難所は同市が2021年度、運用を始めた。「高齢者等避難」を市が発表して指定避難所を設置すると開設される仕組みだ。市民は犬や猫を収容するケージ、ペットフードなどを持参する。市では2018年の西日本豪雨以降、浸水被害が毎年発生。市民から「ペットと避難したい」という声が寄せられていた。
2021年8月の大雨では数日、身を寄せた人もいた。避難者からは「家族の一員のペットと避難でき安心した」との声が上がったという。
写真説明:2021年8月の大雨で、福岡県久留米市が開設したペットと一緒に過ごせる避難所。間仕切りで囲まれ、プライバシーにも配慮している=同市提供
岡山県総社市はこの大雨で犬や猫を連れた市民を避難所で受け入れた。担当者は「ペットを理由に避難をためらうことがないよう、運用を続けたい」と話す。
自治体が取り組む背景
ペット避難は、2011年の東日本大震災でクローズアップされた。飼い主とはぐれた犬が野犬化。避難所でペットと暮らすことができず、車中泊する被災者もいた。
受け入れ態勢を整えようと、環境省は2013年に飼い主とペットが一緒に避難する「同行避難」についての指針を作成。だが、2016年の熊本地震ではペットの鳴き声や臭いが避難所でのトラブルになり、問題の根本は解決されなかった。
写真説明:熊本地震では、他の被災者と離れて避難所の通路に段ボールで間仕切りを作り、愛犬と暮らす被災者の姿もあった(2016年5月、熊本市内で)
2020年7月の九州豪雨でも同じで、熊本県相良村の女性(41)は家族と、犬1匹、猫2匹を連れて向かった避難所で受け入れを断られた。車で寝泊まりするなどし、室内で共に過ごせるようになったのは発生から約1か月後だったという。女性は「ペットは家族。できるだけ一緒にいたい」と話す。
「人とペットの災害対策ガイドライン」によるペットと避難する際の注意点
▽ペットフードや水を5日分は備蓄。ケージなども準備する
▽ペットの受け入れが可能な指定避難所を把握し、避難所までの経路をハザードマップで確認する
▽日頃からキャリーバッグやケージに慣れさせる。決められた場所で排せつできるようにする
▽ペットを落ち着かせ脱走やケガに注意して避難する
▽親戚や友人など、複数の一時預け先を探す
※環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」に基づき作成
民間を活用する例も
自治体が民間と協力する動きも出ている。熊本市は2021年5月、市内の専門学校「九州動物学院」と協定を結び、ペットと避難できる場所を確保できるようになった。学生が使う教室などで受け入れる。同校は熊本地震では、延べ約1500人の被災者とペットを自発的に受け入れた。徳田竜之介学院長は「ペットを飼育する人が増え、災害も相次いでいる。行政は安心して飼い主が避難できる場所を確保してほしい」と期待を寄せる。
山口県光市は2021年7月、ペットと避難できる場所の提供を試験的に始めるとともに、市内の動物病院と協定を結んだ。動物病院側が健康相談に応じたり、備蓄しているペットフードを提供したりする。
(読売新聞 2021年8月23日掲載 社会部・出水翔太朗、周南支局・大野亮二)
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