津波の時は救命胴衣に早変わり!浮くランドセルを開発

浜松の「栄商会」が商品化へ

ランドセルで津波から子どもの命を守る――。静岡県浜松市東区のメガネ用品製造販売会社「栄商会」が、児童の協力も得ながら、水に浮くランドセル「ウクラン(仮称)」(=写真)の開発を進めている。畑違いの分野だが、浜松人の進取の気風「やらまいか精神」で製品づくりに励んでいる。

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ランドセルが浮く仕組み

ウクランは、背当て部分とカバー部分に、ウレタンでできた浮力のある素材を使用している。いざという時は、カバー部分をめくり上げて自分の体の前にもっていき、ベルトを締めて腹部に密着させる。カバー部分の方が背当て部分よりも浮力が強く、水上では自然と顔が上を向く仕組みになっている。

このランドセルを考案したのは、浜松市中区の清水穣治さん。新聞販売店に勤務していた清水さんは、東日本大震災翌年の2012年、被災した宮城県内の小学校を訪れた。多くの児童が津波で犠牲になった校舎を前に言葉を失い、津波から子どもの命をどうしたら守れるかと考え続けた。

その結果、「毎日使用するランドセルこそ、どんな時にも対応できる」と思いついた。ものづくりが趣味という清水さんは、ライフジャケットのメーカーからアドバイスをもらうなどして設計した。

清水さんはこの案を具体化してもらおうと、栄商会に2019年に依頼した。同社2代目の吉沢隆社長が先代からの「誰かのためになるものづくりを」という教えを大切にし、新型コロナウイルス禍でも表情が見える透明マスクを製作するなど、「やらまいか精神」でメガネ用品にこだわらない姿勢を心がけていることを知っていたためという。

性能は? 子どもたちは使えるか?

同社では、大きな責任を伴う防災用品だけに、着脱を簡素化し、水がたまらないように穴をあけるなど、災害を想定して開発にあたってきた。製品安全評価センター(東京)の実験では、体重80kgでも水上で24時間耐久できることが証明されたという。

写真説明:左は、「ウクラン」の通常使用時を後ろから撮影したところ。右は、浮力の強いカバー部分を体の前にもっていき、ベルトで密着させた状態を前から撮影した

2021年5月初めには浜松市西区のプールで体験会を開いた。知人を通じて参加してくれた児童たちは、「ランドセル」をスムーズに「救命道具」に切り替えていた。泳げない児童でもしっかりと水に浮くことができ、参加したNPO法人・浜松ライフセービングクラブからも高評価だった。2021年7月下旬には、浜名湖でも体験会を行った。

写真説明:「ウクラン」を使ってプールで浮く子どもたち(浜松市西区で)

価格は4万5000円前後を見込み、2021年秋の商品化を目指す。清水さんは「思いが形になって本望」と喜ぶ。吉沢社長は「津波を不安に思う子どもたちに、このランドセルで安心してもらえたら」と話している。

(読売新聞 2021年8月22日掲載)

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