防災に専門性!新潟・三条市は気象予報士の通年採用で雨と雪に備える

写真説明:新潟県三条市の信越本線三条駅南約600m付近(2004年7月14日撮影)

台風情報を気象庁発表の3日前に把握

宮城県に上陸し、新潟県をかすめる形で秋田県から日本海に抜けた台風8号。気象庁がその発生を発表したのは2021年7月23日だった。だが、その3日前、新潟県三条市は台風発生の可能性を把握していた。

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◆2021年の台風8号の予報円(7月24日午前9時)

「南大東島の南西沖で台風が発生。迷走する場合があり、予想が変化する可能性がありますが、現状をご報告します」

7月20日、同市行政課に勤務する気象防災アドバイザー内藤雅孝さんが報告書を作成し、同課職員と情報を共有した。報告書には台風の予想進路とともに、市に最接近した際の最大平均風速や総雨量などが記載されていた。

気象防災アドバイザーの報告書

台風8号は、県内を通過する進路も想定されたが、北寄りに進んだことで大きな被害はなかった。同課の小林和幸課長は「内藤さんのおかげで心の準備ができた。地域の細かい気象情報を教えてくれるので、本当に助かる」と話す。

気象防災アドバイザーは4月現在84人

気象防災アドバイザーは自治体などに採用され、地域の気象情報の収集や解説、防災に関する講演などを行う専門家。気象庁出身者や気象予報士が同庁から委嘱される。2017年度に本格的に運用が始まり、2021年4月現在、84人のアドバイザーがいる。三条市など全国11自治体で13人が防災職員として働くなどしている。

内藤さんは商社などで勤務したが、「高校時代に知った天気の面白さを追求したい」という思いが強くなり、2000年に気象予報士の資格を取得し、新潟地方気象台に勤務した。退職後に気象防災アドバイザーとなり、3年前から三条市で働いている。

気象防災アドバイザーの仕事内容

平時は3台のパソコンを駆使し、気象庁や海外の気象予報データを注視しながら天気の動向を追う。天気予報の報告書を毎日作成して職員に配るほか、災害時は気象の見通しを伝え、避難指示など対応の助言を行う。

写真説明:気象防災アドバイザーの内藤雅孝さん。パソコンなどからデータを入手するだけではなく、外に出て空や地形を見ることも大切にしている(三条市役所で)

同市ではこれまで、出水期の季節限定で気象防災アドバイザーを採用していたが、「雨だけでなく大雪への対応にも生かしたい」と、2021年度から通年採用に切り替えた。内藤さんは「危険がきてから準備するのでは遅い。早さだけでなく、精度の高い情報を提供し続けたい」と話す。

過去にも度々豪雨災害があった

三条市は2004年7月の「7・13豪雨」、2011年7月の「新潟・福島豪雨」など、過去に何度も豪雨災害に見舞われた。7・13豪雨では、避難勧告の情報が住民に十分に伝わらず、市内で9人の犠牲者が出た。

写真説明:冠水した道路をボートで捜索する消防隊員ら。新潟県三条市で(2004年7月13日撮影)

その教訓から、同市は他の自治体に先んじた水害対策を取り入れている。全国から注目されているのが、2005年6月に作成した「水害対応マニュアル」だ。市職員一人一人が「いつまでに何をするか」という目標を設定。住民が取るべき行動も記載し、高齢者や障害者などの避難を支援するタイミングや方法なども細かく定めた。内閣府が作成した「市町村のための水害対応の手引き」では、同市のマニュアルが好事例として紹介されている。

災害の激甚化対応着々

災害が激甚化し、状況に応じた柔軟な対応が求められる中、市はマニュアルの見直しにも、内藤さんの専門的な知識を生かしていく。内藤さんは既に市のマニュアルを参考に、自分用に有事の「行動マニュアル」も作っており、「マニュアルを見返して気付いたことがあれば、市に指摘していきたい」と話す。

読売新聞の調査では、災害対応に関する専門知識を有する人材を採用している自治体は県内で三条市を含めて8市村に上る。

◆災害対応の専門知識を持つ新潟県内の職員の採用例

国の防災施策を統括する内閣府防災担当は「豊富な知見を持つ人たちが活躍することは、地域の防災力向上に資する」としている。

(読売新聞 2021年10月7日掲載 新潟支局・宮尾真菜)

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