噴火から観光客を守る!箱根が噴火想定の防災強化で観光との両立図る

写真説明:防毒マスク、科学防護服を着用して行われた合同訓練(2021年10月25日、箱根山で)=箱根町消防本部提供

2015年の火山活動をきっかけに防災強化

神奈川県内唯一の活火山である箱根山。2015年、小規模噴火を含む火山活動の活発化で観光地・大涌谷は大きな打撃を受けた。観光施設などは順次再開、開放が進み、2021年度中には人気スポットの自然研究路への立ち入りもできる見通しだ。県や箱根町は「防災と観光」の両立を図ろうとしている。

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噴火後初の自然研究路での救出訓練

2021年10月25日、箱根町、神奈川県小田原市、同湯河原町の消防職員計約60人が自然研究路に集まり、合同訓練を行った。自然研究路は、「黒たまご」を作る「玉子蒸し場」へ続く約700mの歩道で、大涌谷でも最も身近に火山の息づかいを感じられる。

研究路での救出訓練は噴火後初めて。「有害な火山ガス濃度が基準を超え、多くの観光客が逃げ遅れた」と想定し、化学防護服と防毒マスクで身を守る消防マンたちが、新たに設置された噴石シェルターに逃げ込んだ人を担架で運び出す手順を確認した。

◆火山ガスの特徴と対応策(箱根町火山防災マップなどから)
・ガスは空気より重く、低いところに集まりやすい
・風の弱い日はガスがたまり、濃くなりやすい
・臭いが強いとき、目などに刺激を感じるときは退去
・呼吸器系疾患などがある人は特に注意
・二酸化硫黄などは水に溶けやすいので、ぬれタオルを口に当てる

箱根山の噴火状況

箱根山は、気象庁などが24時間体制で観測・監視している「常時観測火山」の1つ。県立生命の星・地球博物館の山下浩之学芸員によると、約6万6000年前に起きたとされる最大級の噴火では、噴き上げられた軽石が南関東一円、遠くは千葉県銚子市付近まで飛散し、火砕流は1時間足らずで今の横浜まで到達したという。

2015年の火山活動は4月下旬に群発地震の予兆があり、6月29日に大涌谷の噴煙地斜面でごく小規模な水蒸気噴火が起きた。大涌谷では現在も勢いよく噴気が上がっている。

写真説明:小規模な水蒸気噴火が起きた箱根山の大涌谷付近(奥)(2015年6月30日)

噴火後に実施された防災対策

火山ガスの観測機器や監視施設

県と箱根町などは噴火後、大涌谷とその周辺、計11か所に火山ガスの観測機器を設置。監視所を設けて火山監視員を配置した。ロープウェーの大涌谷駅や土産物施設など5か所を1次避難所に指定し、約3000人の収容が可能となった。

県や町などで構成する「箱根山火山防災協議会」の事務局を務める岩渕浩二・県応急対策担当課長は「10年先も人的被害ゼロを合言葉に取り組んでいる」と話す。

噴火想定の運用と噴石シェルター

自然研究路への立ち入りは1回30人に絞り、事前申し込みによる引率方式にする方針だ。歩きやすいようにコンクリートで舗装し、新たに2本の避難路も設けた。厚さ25cmの鉄筋コンクリート製の噴石シェルターを約100m間隔に7基新設しており、ガスマスクやぬらしたタオル、担架を常備する。

写真説明:展望台も兼ねて自然研究路に設置された噴石対策用シェルター(2018年7月)

自然研究路の開放を控え、現地で監視責任者を務める箱根町消防OBの関田和明さんは「お子さんからお年寄りまでいらっしゃる。たえず緊張しています」と警戒を緩めない。同協議会委員の秦康範・山梨大准教授も「相手は自然。安全対策を講じてもリスクはゼロにならない。万が一のときは、すぐ逃げる。少なくともハイヒールは控えてほしい」と呼びかけている。

(読売新聞 2021年12月12日掲載 横浜支局・池尻敦)

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