高齢者を災害から守るために!防災活動に参加促す工夫いろいろ

矢守克也京大教授の「防災活動のハードルを下げる」実践例から

多発する災害から身を守るために様々な防災活動が行われているが、シニア世代には参加するのに二の足を踏んでしまう人もいるだろう。取り組みやすくするには、どうしたらいいのか。南海トラフ地震で津波の襲来が予想される高知県沿岸部などの地域活動を支援している矢守克也・京都大防災研究所教授らの実践例を基に考えてみたい。

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高齢者は防災活動に参加しづらい?

高齢者や障害者など配慮が必要な人たちが災害で犠牲になる事態が近年、繰り返されている。それなのに、実際の防災活動は、心身壮健な人や機器を使いこなして防災情報を得られるような人を前提に行われることが多い。

この食い違いが、シニアを防災から遠ざける要因だと考えた矢守さんが提唱するのは「防災活動のハードルを下げる」ことだ。ベッドや椅子から立ち上がったり、自力で歩いたりすることに困難を感じる人にとって、遠くの避難場所まで歩いて行くような訓練はハードルが高い。

写真説明:矢守克也・京都大防災研究所教授

アンケートでわかる高齢者の考え

内閣府が2018年に発表した世論調査結果では、防災訓練に参加しなかった理由として、全体では「時間がなかった」を挙げた人が最も多かったが、70歳以上では「会場に行くのが大変だった」が最多で、シニア層の参加を促すには抵抗感を減らす工夫が必要なことを示している。

◆防災訓練に参加しなかった理由(複数回答、%)
※内閣府が2018年に発表した世論調査結果による

訓練内容を高齢者が参加しやすく変える

そこで矢守さんたちは「玄関まで避難」という訓練を提案し、高齢の住民らが実際に取り組んでいる。合図をきっかけに室内から玄関まで行き、靴を履いて杖(つえ)を取るなどしてから路地へ出て、その所要時間を計る。自力で外へ出られれば、近隣住民や消防団の助けを得やすくなる。訓練を通じて、避難の妨げになりそうな家財道具がないかを点検することもできる。

「自宅の2階まで」「高台や津波避難タワーの途中まで」という訓練もしている。小中学生らが迎えに行って一緒に歩く「同行同伴避難」も、シニア層の参加意欲を高めるには効果的だ。

高齢者が参加しやすいようハードルを下げた防災活動

自宅での避難訓練

指定緊急避難所への避難訓練

「小さなステップでも一歩を踏み出せば、次はもう少しハードルを上げた訓練に挑戦しようという前向きな気持ちが生まれる。周りの人に『あなたもやってみたら』と勧めてくれて、輪が広がることもある」と矢守さんは言う。

避難所ではなく「福祉避難所」を活用する

災害時の避難生活で特別な配慮を必要とする人たちのために、地域の福祉施設などを「福祉避難所」として運用できる制度がある。一般的な避難所で暮らすのに支障が多い人には有用な仕組みだが、災害が起きてから初めて行くのでは、不安も大きい。

そんな人に有効なのは、福祉避難所に指定される施設を平時に訪問しておく「お試し避難」だ。どんな設備があるのか、どのようなスタッフが働いているのかを知ることができれば、いざという時に利用しやすい。施設側にとっても、避難してくる可能性がある人について、心身の状態や配慮すべき点をあらかじめ知っておけば、円滑な受け入れにつながる。

平時の福祉避難所お試し避難

自宅の地震対策

地震では家財道具の転倒や落下で負傷したり逃げ道をふさがれたりすることが多く、固定しておくことが推奨されている。多くの自治体が用具の購入費などへの補助金制度を設けているが、なかなか進まないのが実情だ。

高齢者はやりたくてもできない?

家具を固定する作業というのは、実際にはなかなかの重労働である。関心がないのではなく、やりたくてもできない人が多いのではないかという発想から考案されたのが「押しかけ家具固定」という取り組みだ。

中学生らが、家具固定を呼びかけるチラシを作り、高齢者らの家を訪問して勧める。承諾が得られれば、用具は自治体の補助金を使って用意し、作業は、手慣れた近隣住民や電器店、家具店のスタッフらがボランティアで行う。

押しかけ家具固定

説明:高齢者らに自宅の家具固定を勧める。承諾が得られたら、ボランティアらが作業を行う

「やりたくてもできない人がいることに目を向け、ステップを踏み出すのを効果的に支援できる仕組みを社会全体で考えたい」というのが矢守さんの思いだ。

◆矢守教授のアドバイス

(読売新聞 2021年12月16日掲載 編集委員・川西勝)

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