注目の生活再建支援手法「災害ケースマネジメント」導入例を探る

写真説明:地震で多くの建物が壊れた被災地(2018年7月、大阪府茨木市で)

従来の公的支援とは一線を画す新しい支援手法

被災者の生活再建では、従来の公的支援とは一線を画す新たな支援手法「災害ケースマネジメント」が注目されている。「家の壊れ方で支援策が決まる」ことが「常識」とされてきた従来のやり方に限界が見えてくる中、被災者それぞれの事情に柔軟に対応できる手法に関心が集まるようになった。

こちらの記事も読まれています→震災10年・津波で壊滅した宮城県女川町の須田善明町長が復興を語る

従来の公的支援との違い

被災者の生活再建はこれまで、阪神大震災を機に1998年に成立した被災者生活再建支援法に基づいた支援が中心だった。しかし、自宅の損害割合に応じて最大300万円が支給される制度の下では、被害程度が小さい被災者は支援の枠の外に置かれ、生活再建が難しかった。

災害ケースマネジメントでは、〈1〉自治体の委託をうけた支援団体などのスタッフが被災者を個別訪問し、被災状況や課題を把握〈2〉生活再建に向けた計画を作成〈3〉民間団体、福祉や法律などの専門家らが連携して支援――という流れで、被災者にきめ細かく目を配りながら支える。2005年にハリケーン「カトリーナ」で甚大な被害が出た米国で始まったとされる。

日本弁護士連合会・災害復興支援委員会の津久井進弁護士(=写真)は「公的支援の対象にならない人を救う重要な手段」と指摘する。

2011年以降の導入例

国内では、仙台市が2011年の東日本大震災後に導入。阪神大震災で生活再建が進まず仮設住宅に長く残る被災者が多かった教訓から、最大33人のスタッフが仮設住宅の約8600世帯を1年がかりで全戸訪問し、必要な世帯を支援した。2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨の被災地でも取り入れられた。

◆災害ケースマネジメントの実施状況

鳥取県は全国初の条例に

鳥取県は2018年に災害ケースマネジメントを導入。今後の災害でも活用できるよう恒久的な制度にするため、全国で初めて条例に盛り込んだ。

鳥取県中部地震で支援の対象外が続出

きっかけは、約1万5000棟が被災した2016年の鳥取県中部地震。震度6弱の揺れに見舞われた倉吉市の矢城良太郎さんの自宅は、1階部分の屋根瓦が幅10mにわたり崩れた。

しかし、被害程度は国の被災者生活再建支援制度で最も軽い「大規模半壊」(当時)より小さく、支援の対象から外れた。矢城さんは資金に余裕がなく、修復に手を着けられなかった。屋根のブルーシートは経年劣化し、雨水で木材の腐食が進み、いつ落ちるかわからない屋根の下をヘルメットをかぶって通った。

制度導入後

制度の導入によって、矢城さん宅にも県の委託を受けた支援団体のスタッフが訪問。県の補助制度の活用を提案し、屋根の修復費用が補助の上限額(30万円)に収まるよう業者にも交渉してくれた。2020年秋にようやく屋根を修復できた矢城さんは「自分だけではどうすることもできなかった」と話す。

写真説明:修復を終えた屋根の前で、支援に関わった当時のスタッフと笑顔で話す矢城さん(右)(2021年12月、鳥取県倉吉市で)

2018年10月に144棟の屋根にかかっていたブルーシートは、制度の導入効果もあり、2021年12月末には3分の1の47棟まで減った。県の担当者は「根拠条例があることで必要な予算を付けやすく、市町村にまで広げやすい」と意義を強調する。

制度導入への課題

課題もある。大都市圏で導入する場合、多くの被災者に対応するだけの人材や財源を、都道府県や基礎自治体だけで確保できない可能性がある。2018年の大阪北部地震では、住宅被害の99%にあたる6万棟以上が一部損壊で、国の支援の枠外となった。大阪、京都両府の10市町が独自の支援制度を設けたが、支援額が限られ、発生から3年を過ぎても自宅の修復が困難な世帯が残る。

写真説明:大阪北部地震から1か月後に撮影された被災地。多くの建物の屋根にブルーシートが張られていた(2018年7月、大阪府茨木市で)

自治体が単独で行う支援制度なのか

全国知事会は2021年6月、国が制度を導入し財政支援することを求めた。2021年12月の参院本会議で岸田首相は、今後の被災者支援のあり方を問われ、「関係者が連携して必要な支援を行う災害ケースマネジメントの仕組み作りを進めたい」と述べたが、具体的な検討はこれからだ。

津久井弁護士は「自治体が単独でやるより、国が人・モノ・金を担保する方が手厚い支援が可能だ。早く生活再建できる被災者が多いほど財政負担は減る。国は早期に取り組むべきだ」と指摘する。

(読売新聞 2022年1月11日掲載 社会部・羽尻拓史)

<関連する記事はこちら>
災害時の仮設はコンテナで 業者と自治体に協定広がる

この記事をシェア

記事一覧をみる

防災ニッポン+ 公式SNS
OFFICIAL SNS

PAGE
TOP