愛知県が南海トラフ地震などに備え基幹的広域防災拠点を独自整備

待望の拠点、事業費350億円で2025年度末の完成目指す

南海トラフ巨大地震などの大規模災害に備え、愛知県は全国から自衛隊や警察などの応援部隊や物資を受け入れ、被災地に届けるための「基幹的広域防災拠点」を整備する。支援対象地域は県内にとどまらず、中部地方全体を後方支援する拠点としての役割も期待される。

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基幹的広域防災拠点とは

基幹的広域防災拠点は、1995年の阪神大震災をきっかけに、国が首都圏の2か所(東京都江東区、川崎市)と、関西圏(堺市)の臨海部1か所に設けた。3大都市圏のうち中部圏だけにない。愛知県は20年余りにわたって国に設置を要望したが実現せず、県独自での整備を決めた。

基幹的広域防災拠点は、名古屋空港の北西に隣接する愛知県豊山町青山地区の民有地など19・2㏊に設ける。名古屋高速に近く、空路と陸路が活用しやすく、内陸部のため津波や液状化の被災リスクも少ないと判断した。

写真説明:愛知県が整備する基幹的広域防災拠点と隣接する名古屋空港

拠点内は、「消防学校エリア」(6・1㏊)、「支援部隊エリア」(8・4㏊)、「支援物資エリア」(4・7㏊)の3エリアに分ける。

◆愛知県の基幹的広域防災拠点

各エリアの用途

消防学校エリアでは、県と名古屋市の消防学校を統合。有事の際は負傷者を広域搬送する臨時の医療施設などを開設し、平時は小中学生や自主防災組織のメンバーらに体験重視型の防災教育を行う。

支援部隊エリアでは災害時、自衛隊や警察などの応援部隊が宿営し、車両の給油も行う。支援物資エリアでは、国や自治体から寄せられた物資を仕分けし、被災地に送り出す。

事業費は総額350億円の見込み。2025年度末の完成を目指し、地権者への説明会などを始めている。隣接する「豊山町エリア」は、同町が避難所などを整備する。

南海トラフ地震に関して

今後30年以内に南海トラフ付近を震源とするマグニチュード8~9級の地震が発生する確率は、「70~80%」とされる。愛知県の試算では、県内の死者は最大約2万9000人、建物38万2000棟が全壊・焼失し、被害額は13兆9000億円に及ぶ。県の担当者は「後方支援の拠点を一刻も早くつくる必要がある」としている。

◆南海トラフ地震で想定される震源域

名古屋大減災連携研究センターの福和伸夫教授(地震工学)は「南海トラフ地震は中部圏でも被害が大きく、本来、国が首都圏や関西のような拠点を整備すべきだ」と指摘する。

その上で「復興にはあらゆる人が一致協力する必要がある。地域主体で拠点をつくれば力を結集しやすく、巨大地震の危機が迫る中、整備する意義は大きい。平時は生きた防災教育の場として『事前防災』を実現する場にもしてほしい」と話す。

東海3県の防災拠点整備状況

愛知県の基幹的広域防災拠点とは別に、東海3県はそれぞれ防災拠点の設置を進めている。

■愛知県
愛知県は津波で浸水しても一時避難や救助活動ができるよう、県内の海抜0m地帯の4か所で、数mかさ上げした土地にヘリポートなどを備えた防災拠点を整備している。国内最大の0m地帯が広がる木曽川、揖斐川、長良川の下流域にある同県愛西、弥富両市に各1か所、西尾市と、豊橋市を中心とした東三河地区に各1か所、設ける計画だ。

■岐阜県
岐阜県は、県立の運動場など18か所を、市町村を後方支援する広域防災拠点に指定。施設の機能により、警察や自衛隊の拠点、物資の配送、医療拠点の役割を持たせ、物資の受け入れ訓練を行うなどして災害に備えている。

■三重県
三重県も、2017年度までに広域防災拠点6か所を整備した。地震などで陸路が寸断されても活動できるよう、いずれもヘリポートを備え、南北に長い県域をくまなく支援する態勢を整えた。

後方支援の重要性

災害時の後方支援の重要性は、2011年の東日本大震災で注目された。岩手県内陸部の遠野市は、津波で被災した同県釜石市や宮古市、大槌町など沿岸自治体の後方支援拠点の役割を担い、「遠野モデル」と呼ばれる。

◆東日本大震災における岩手県遠野市を中継基地とした支援の流れ

宮城県沖地震の発生が懸念されていた2007年、遠野市と沿岸自治体は協議会を設立。津波に見舞われた場合、遠野市の運動公園を自衛隊や警察の拠点、ヘリの離着陸場所とする構想をあらかじめ定めていた。

実際に応援部隊は遠野市に集結し、迅速に活動を開始。市内の公民館などでボランティアらを受け入れ、市民らはおにぎりを作って被災地に届けるなどした。

市の担当者は「後方支援は津波が来ない遠野が果たす役割。迅速な救助や復旧につなげ、命を救うためには事前の備えが欠かせない」としている。

(読売新聞 2022年1月27日掲載 編集センター・矢野彰)

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