奈良の文化財耐震化!国宝下に免震装置や展示品振動実験も

写真説明:奈良・唐招提寺は免震装置付きの展示台に国宝の仏像を安置した(2021年2月)

南海トラフ巨大地震発生時に国宝建造物をどう守るのか

「地震大国・日本」にあって、文化財の収蔵施設や歴史的建造物の耐震化は急務だ。2016年4月の熊本地震では、特別史跡・熊本城跡で重要文化財の櫓(やぐら)や門など13棟全てが損壊。多くの文化財が残る奈良でも、防火対策は浸透している一方、地震への備えは進んでいない。

こちらの記事も読まれています→南海トラフ対応 徳島・板野町の道の駅はこんなにすごい

防火対策に比べて地震対策は進んでいない

国宝建造物などの集積する奈良県内でも、地震で深刻な被害が生じる恐れがある。30年以内に70~80%の確率で発生するとされる南海トラフ巨大地震では、国指定文化財の建造物37件が被災する可能性がある。

奈良市のNPO法人「奈良まほろばソムリエの会」は2017~2019年、対策が充実しているとみられる世界遺産登録の寺社の所有を除く県指定文化財の建造物88件、彫刻64件で、災害への対策を尋ねる調査を実施した。

檀家や氏子が減少していて……

この結果、消火器や火災報知機の設置は9割以上で行われていた一方、地震対策は半数以上が未実施と判明。屋根瓦を軽量化したり、壁を補強したりする対策を講じた寺社などは125か所のうち53か所で、42.4%にとどまった。対策できない理由では「檀家(だんか)や氏子の減少で対策費用が見込めない」との回答が目立ったという。だが、地震は待ってくれない。県民の財産でもある文化財では、県が対策を主導してもいいだろう。

常設の文化財防災センター

災害から文化財や史料を守ろうとする動きは、文化財や歴史の研究者にも広がりつつある。国立文化財機構は2020年10月、奈良市の奈良文化財研究所に常設の「文化財防災センター」を設置。兼任を含む研究員ら約60人が、国や自治体、研究機関などと連携して、文化財の応急・修復処置の技術開発や、災害時の救援活動などに取り組む。

展示施設の振動実験でデータ収集

同センターは寺社の収蔵施設や博物館、美術館などの展示品の安全対策も研究している。2021年12月には、兵庫県三木市の「実大三次元震動破壊実験施設(E―ディフェンス)」で、展示施設の空間を再現した振動実験を実施(=写真、文化財防災センター提供)。

工芸品や屏風(びょうぶ)などの模擬の展示品をケース内に置いた状態で、震度6強や6弱相当の振動を与え、展示品や設備の損傷データを集めた。

同センターの小谷竜介・文化財防災統括リーダーは「センターの常設で、継続的な研究を行うことが可能になった。得られたデータは将来的に展示施設や寺社にフィードバックしていきたい」と話す。

地域の象徴とも言える文化財の消失は、被災した人々の心に、さらに大きな傷を負わせ、喪失感をもたらす。対策に終わりはない。

(読売新聞 2022年2月24日掲載 奈良支局・土谷武嗣)

<関連する記事はこちら>
高層ビルに職場がある企業向け!防災担当者が知っておきたいオフィスの地震対策

この記事をシェア

記事一覧をみる

防災ニッポン+ 公式SNS
OFFICIAL SNS

PAGE
TOP