災害弱者対応!認知症のお年寄りや外国人の場合

写真説明:災害時に施設入居者が直面する様々な状況をまとめたシート

高齢者は自力避難が難しく言葉の壁が外国人に立ちはだかる

災害が起きた時に身を守ったり、1人で避難したりすることが難しい高齢者や子ども、言葉の壁で情報を把握しにくい外国人などは「災害弱者」と呼ばれる。でも、周りにいる人で声を掛け合い、助け合うことができる。東日本大震災から11年。どんな準備をしておけばいいのか、模索が続けられている。

こちらの記事も読まれています→大分・別府モデル「災害弱者を取り残さない」取り組み

愛知・あま市の認知症グループホームの場合

職員が思いつく限りを想定する

「ガラスが割れて部屋に飛び散る」「昼食時の災害発生で、口に入れたものを詰まらせてしまう」――。

愛知県あま市の認知症グループホーム「ポプラ」は、大きな災害時に入居者らがどのような困難な状況に直面するか、全職員で思いつく限りのケースを想定しておく取り組みを始めた。

職員が考えた様々な状況は、1つ1つ小さな紙片に印刷。避難が必要なことを入居者になかなかわかってもらえない、エレベーターが止まって車いすの人の避難に時間がかかる、といった状況も想定されている。

分類して縦と横で整理する

これらは、「発災時」「避難移動」「落ち着き」という時系列の横軸と、入居者が直面する困難か、職員の問題かなどで分類する縦軸で、「ドタバタまとりっくす」という大きな1枚のシートに整理した。ふだん職員の目に触れるホワイトボードに貼ってある。

写真説明:災害で入居者らが直面する様々な状況をまとめたシート。職員が慌てず、適切に行動するための準備になるという(愛知県あま市で)

「自分たちが被災した時のことを細部までイメージしておけば、職員一人ひとりが慌てず、適切な行動を取ることができるようになる」。事務長の水野義久さんは狙いを説明する。

2021年7月、この取り組みを周知したところ、約1か月で職員から手書きのメモやメールが300点ほど寄せられた。重複を整理し、約100枚にまとめた。

水野さんは「新たな気づきがあれば、その都度、追加していきたい」と話す。

「まとりっくす」作りは、愛知県立大の清水宣明教授(危機管理学)が考案した災害弱者にかかわる人材育成プログラムの一環。「命を守るにはどう行動すればいいか、個々の職員が考えられるようになることが大切」と清水教授は期待する。

整理内容から避難行動へ

ポプラでは今、「まとりっくす」で整理した内容から、具体的な避難行動の見直しを始めている。

ポプラ周辺は海抜0m。従来は、地域の避難場所に指定されている約200m先の小学校に向かう計画だった。しかし、「限られた数の職員で、まとまって安全に避難するのは難しい」と複数の職員が指摘した。

あま市によると、大地震による津波が起きた場合でも、施設周辺で想定される高さは最大で1mほど。そこで、改めて話し合い、施設の建物の2階に避難する方針に転換した。ケアマネジャーで施設管理者の松永紀美さんは「近くの川を逆流した水が堤防を越えても、垂直避難すれば助かる可能性が高い」と話す。

行政から施設に働きかけた

入居者らの避難方法を見直すきっかけになったポプラの「まとりっくす」作りは、あま市が施設側に依頼して始まった「試行」だという。比較的取り組みやすい施設でノウハウを得て、地域で暮らす認知症高齢者らの被災時の支援に役立てたい、というのが狙いだ。

市高齢福祉課の宮地賢一さんは「認知症の人は施設以外にもたくさん暮らしている。災害時にどのようなことが起きるのかをよく考え、地域の人たちの力を借りながらしっかり支える態勢を整えたい」と話す。

施設以外で暮らす地域の高齢者に対しては

施設で暮らす高齢者ばかりではない。地域で一人暮らしをしている高齢者が増えており、いざという時に、どのように支えるかが重い課題になっている。

元気に活動している高齢者も少なくないとは言え、阪神大震災が起きた1995年に717万人だった75歳以上の人口は、2020年には1860万人と2・6倍に増えている。一方で、15~64歳の人口はこの間に1200万人以上減った。

「支える側の力が弱まり、災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な社会になっている」。鍵屋一・跡見学園女子大教授(福祉防災)は地域住民で支え合い、避難する構図が難しくなりつつあることを指摘する。

東日本で河川の氾濫が相次いだ2019年10月の台風19号では、死者の65%が高齢者だった。2020年7月の九州豪雨では8割に上った。

鍵屋教授は「ケアマネジャーなど地域の高齢者や障害者の状況を知る福祉専門職と、地域の人がしっかりつながることが大切」と災害弱者を支える新たな態勢づくりの必要性を訴える。

この記事をシェア

記事一覧をみる

防災ニッポン+ 公式SNS
OFFICIAL SNS

PAGE
TOP