(画像提供:ベル・データ)
企業や自治体で災害時に備えて用意している備蓄品。適切な品目・個数を用意し、正しく在庫管理をしないと、いざというときに活用できないこともあります。今回は、こうした事態を防ぐための防災備蓄管理システム「BxLink(ビーリンク)」を提供するBELLグループ防災事業推進部の狩野貴史さんに、サービスの詳細について聞きました。
こちらの記事も読まれています→JA北大阪の缶飲料「農協の飲めるごはん」災害食で累計20万本超
備蓄品を一元管理する備蓄プラットフォーム
――「BxLink(ビーリンク)」のサービス内容について教えてください。
BxLinkは、災害時に備え、備蓄しているアイテムの在庫管理を行うクラウドサービスです。グループの新規事業として防災に取り組み、2021年4月から提供しています。「何がどこに何個あるのか」といった基本的な情報をはじめ、非常食については消費期限の管理もクラウド上で行うことができます。
たとえば、システムに避難者の人数・属性・避難が想定される日数などを入力することで、必要な備蓄品の品目と数量をシミュレーションできます。それを参考に備蓄計画を立てることができます。実際に在庫情報を入力するときは、リスト表示される品目名や倉庫名から適切なものを選び、個数を登録します。
また非常食については、消費期限を入力しておくことで期限が近づくとアラートが表示されたり、担当者にメールなどで通知したりすることができます。
このような仕組みにより、災害時に「必要なものが不足していた」「期限切れで食べられない」という事態も防げます。
――BxLlinkの特徴をもう少し詳しく説明ください。
備蓄の計画段階で「どのような種類の食事をどのくらいの量、備蓄すべきか」といったことをサポートする機能があることです。単に社員や住民数をもとに避難者数を割り出すだけでなく、高齢者やアレルギーがある人、嚥下(えんげ)障害や腎疾患の患者の人数といった「要配慮者」を想定したうえで、備蓄する内容についてシミュレーションができます。
また自治体の場合、備蓄品の在庫状況については国のシステムとのデータ連動が必要です。BxLinkはそのシステムとの連携が可能で、データ入力作業もBxLinkに入力すれば国のシステムにも反映するようになっています。
実際の災害時には、各自治体だけで避難や対策が完結することは現実的ではなく、近隣の自治体も含めた広域での対応が必要となってきます。その際にも、近隣では何をどのくらい備蓄しているかといった情報の共有も可能です。
BxLink開発の経緯
――なぜ備蓄品に特化したサービスの提供を始めたのでしょうか。
備蓄品の管理については、表計算ソフトのExcelでおこなっているところが多いのが現状です。「何が何個ある」「消費期限はいつまで」といった程度の管理であれば、担当者が一覧表を作って都度入力していくことで十分対応できるかもしれません。
しかし備蓄品は多種多様です。企業や自治体には人事異動もあり、そのExcelデータを同じ担当者がずっと管理するとは限りません。たとえば同じ「米」の在庫を入力するにしても、担当者によって「アルファ米」「ごはん」または商品名を入力するなど、表記ゆれが生じることがあります。その場合、必要になったときに「米が何食分あるのか」といった簡単な情報もわからない、という事態が起こります。
BxLinkでは入力フォーマットが統一されているため、そのような属人的な表記ゆれを防ぐことができます。またこれにより、国や近隣の自治体、連携する民間企業との情報連携もスムーズに行えるのです。
さらに、災害が起きて実際に非常食を配布しなければならないときに、そのExcelファイルを保存しているパソコンが使えるとは限りません。また災害時には担当者だけでなく、色々な人が備蓄品を使うことがあるでしょう。そのとき、その際「何を何個持ち出した」といったデータの書き換えや履歴を追うことは、端末上で都度上書きしなければならない運用ではデータ管理が難しいのです。
一方、BxLinkはクラウド上のツールなので、スマートフォンやタブレットなど、同じ情報を複数人でどこからでも参照・編集することができます。これは普段、見落とされがちかもしれませんが、災害時には力を発揮する機能です。
――特に非常食の管理に特徴がありますね。
「一般的な非常食を食べられない要配慮者」への対応です。具体的には持病などで食事制限がある人(傷病者)や乳幼児、食物アレルギーのある人や食べる力の弱い高齢者などです。弊社の調査では、こうした人たちは地域の総人口に対し20%程度いることがわかりました。
■中部圏内の人口1,705万人のうち一般的な非常食を食べられない要配慮者
(画像出典:ベル・データHP-「(詳細) 中部圏内の20%問題」)
こうした要配慮者向けの非常食も準備しておくことが、全住民・全社員が置き去りにされない備蓄を目指すことにつながります。
BxLinkでは、国立健康・栄養研究所国際災害栄養研究室の笠岡(坪山)宜代室長の監修のもと、国が推奨する非常食計画のアドバイスも可能です。計画を立てるだけでなく、その計画に対し「現在何%非常食が充足しているか」といったことも可視化されるため、いざというときに非常食が不足してしまう事態を避けることができます。
そうしたサービス内容から、災害時に素早い対応が求められる電力会社や鉄道会社、拠点ごとに災害担当者が異なる大手企業など、現在約17の自治体、4社の民間企業で導入・利用されています。
3日間を「自力」でしのぐには近隣地域との連携が不可欠
――ほかにBxLinkを使う利点について教えてください
備蓄品の管理で大切なのは、正しく実情に即した内容で計画し、準備することです。十分な数の備蓄品があるのか、要配慮者でも食べられる非常食として何をどの程度用意すべきか。こうした実情を把握していなければ計画を立てることもできません。
そして災害時には、隣の市区町村との広域連携が必要となることもあります。特に大地震では自衛隊などが到着するのは4日目以降と言われており、発災後の3日間は自力でしのがなくてはなりません。3日間を地域一体となって乗り切ることになります。そのとき、お互いに「何がどこに何個あるか」を効率的に把握することは重要です。
しかし災害が起きてから急に連携をしようと思っても難しいものです。平時から近隣自治体や民間企業などでBxLinkという統一されたプラットフォームを使っていただくことが、災害時の連携の助けとなると考えています。
まとめ
備蓄していても、いざというときに使えなければ意味がありません。災害時に使うときのことを考えた管理の重要性についてあらためて認識しました。
BELLグループ:https://www.bell-group.jp/
東京都新宿区。BxLinkの利用料金は月額30,000~50,000円ほどが目安(企業・自治体の規模によって異なる)。初期費用は不要。
<執筆者プロフィル>
松本果歩
フリーランスライター
<関連する記事はこちら>
空港と周辺3町が災害備蓄品をネットで共同管理!南紀で実証実験