風水害 災害シナリオ(2) いつ避難すれば

写真説明:2019年10月の台風19号では大雨で阿武隈川が氾濫し、市街地が冠水した(福島県本宮市)

災害時、私たちはいつ避難すべきか。そのタイミングを分かりやすく伝えるため、昨年5月、気象や避難などに関する様々な情報を5段階に分類する「警戒レベル」が導入された。ただ、本当に分かりやすくなったのか。昨秋の台風19号での国の検証報告も踏まえ、架空のシナリオで考えたい。

[シナリオ1] 災害情報 次々と発表…正午前

「大雨・洪水警報が発表中 福島県福島市」「福島県、宮城県の阿武隈川に氾濫警戒情報」「福島市に土砂災害警戒情報を発表。警戒レベル4相当」……。

親戚の葬儀で福島市内の実家に帰省していた太郎(45)が正午前、スマートフォンの画面を見ると、防災アプリから気象や災害に関する情報が次々と届いた。

昨夜から断続的に降り続いていた雨は、朝から強まっている。妻、花子(43)が見ているテレビでも、「洪水警報」「土砂災害警戒情報」といったテロップが流れ続けている。

太郎は昨日、東京の自宅で見たニュース番組を思い出していた。「東日本を中心に非常に激しい雨となり、大雨特別警報発表の可能性もある」と訴え、気象情報への留意を求めていた。

雨雲が近付いているのは分かるが、実家そばの川も危ないのだろうか。「気象情報に留意」と言われても、あまたある情報の何が自分たちに危険を伝えるものなのか、太郎には分からなかった。

防災アプリ

気象情報や防災情報などをスマホに通知してくれる。東日本大震災を機に急速に普及した。種類も豊富で、自分に必要なものをダウンロードし、正常に動くかを普段から確認することが大事だ。

[シナリオ2] 「警戒レベル4相当」避難する? …昼過ぎ

午後1時。テレビは千葉県や茨城県の市町村に避難勧告が出されたことを伝え、「警戒レベル4。速やかに全員避難です」と繰り返していた。

太郎は「福島市に土砂災害警戒情報を発表。警戒レベル4相当」という通知が昼前に届いていたのを思い出し、実家に住む弟に尋ねた。「ここも4だから避難だよなあ。でも避難情報が出ていない」。弟は市役所に尋ねようと電話したが、つながらず、非常用持ち出し袋を太郎に手渡した。

雨脚は激しさを増していた。ただ、テレビで見る雨雲の中心は千葉付近にかかったままで、今夜中に房総沖に抜ける予報になっていた。「その頃には雨も弱まっているはず。自分たちは大丈夫だろう」。太郎は非常用持ち出し袋を部屋の隅に置き、横になった。

非常用持ち出し袋

避難先で当面必要な最低限の品物を入れたリュックやカバン。品物は懐中電灯や携帯ラジオ、水、食料などが一般的。新型コロナウイルス対策で、マスクや体温計なども用意しておきたい。

異常事態に直面した際、大したことはないと判断して平静を保とうとする心理メカニズム。「正常性バイアス」と呼ばれる。日常生活では必要な働きだが、災害時には適切な状況判断の妨げとなる。

[シナリオ3] 「避難指示」待ったら逃げ遅れ…夕方

午後5時前、まどろんでいた太郎はスマホの着信音で目覚めた。画面には「福島市からの緊急情報 避難所開設のお知らせ ○地区に避難勧告を発令」との通知。テレビをつけると、「避難勧告(警戒レベル4)」というテロップの下に実家の○地区が記されていた。

「4だから逃げた方がいいね。避難所は高校だったはず」。弟が太郎と花子に話しかけつつ、ハザードマップを広げ、避難ルートの確認を始めた。

太郎は外に出た。隣家にはまだ人がいるようだ。「確か、勧告よりも重い『避難指示』というのがあるはず。そこまで雨も強くないし、少し様子を見ようか」。屋内に戻り、弟に声をかけた。

約1時間後。テレビのアナウンサーが福島市への避難指示発令を伝え、「警戒レベル4です。直ちに安全な場所に避難してください」と鬼気迫る表情で訴えていた。

「え? 指示なのに、また4?」。太郎は首をかしげた。窓に打ち付ける雨音が気になり、再び外に出ると、実家前の道路は冠水していた。「もう避難は無理だ」。太郎ら3人は2階の和室で一夜を明かすことになった。

避難ルートの確認

ハザードマップで確認した避難所までのルートを日頃から歩くなどして把握することが大事だ。国は、車での避難は水没などの危険があるとして、十分な注意を呼びかけている。

防災ヒント 警戒情報は5段階

レベル化 きっかけ

「警戒レベル」導入のきっかけは2018年7月の西日本豪雨だ。避難勧告や大雨特別警報など様々な情報が国や自治体などから出たが、必ずしも住民の避難行動に結び付かなかった。

警戒レベルはこうした情報を5段階に分類し、危険度が高くなるほど数字を大きくして、直感的に理解できるようにした。大事なのはレベル3と4だ。3で高齢者ら避難に時間がかかる人が、4で対象地域の全員がそれぞれ避難を始める。

混乱生む「情報」

シナリオからは警戒レベルの課題が浮かび上がった。

レベルの各段階に当てはめる情報は、気象庁や国土交通省、都道府県が出し、災害発生の危険度を示す「防災気象情報」と、市区町村が出し、避難を促す「避難情報」に大別される。前者は40種類以上あり、後者は▽避難指示▽避難勧告▽避難準備・高齢者等避難開始――の3種類。5段階に整理されたものの、情報の数は減っていない。

「レベル○相当」という表現も分かりにくさが指摘されている。「相当」が付くのは防災気象情報だが、「レベル○」と酷似している上、多くの場合、避難情報よりも先に防災気象情報が発表されるため、昨秋の台風19号では混乱する住民もいた。

国が防災気象情報を警戒レベルに結び付けたのは、一人一人が「自らの命は自らが守る」意識を持ち、避難情報を待たずに動き出すことを求めているからだ。

勧告・指示 同じ「4」

避難勧告と指示がなぜ同じレベル4なのか。

災害時、市区町村長はまず「勧告」を出し、さらに危険度が高い場合は「指示」を出すことが災害対策基本法で定められている。しかし、「指示」は必ず発令されるわけではない。

指示を待っていては逃げ遅れるため、避難開始の合図は「勧告」にする必要があった。勧告が出た時点での避難が大切なのだ。

ところが、台風19号後に「いつ避難するか」を尋ねた政府の調査では、「レベル4の避難指示」などと回答した住民が52%に上った。

改善策は

警戒レベルを巡る問題点が台風19号で浮上したことを受け、政府は改善策を模索している。

特に、避難勧告と指示がレベル4という問題では、勧告と指示の統一や、指示のレベル5への格上げなどが検討されている。

また、国は相当情報を含めた警戒レベルの仕組みについて、チラシや内閣府のホームページなどで普及啓発を強化していく方針だ。

 

(読売新聞 2020年5月10日掲載 社会部・坂場香織が担当しました)

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