写真説明:涌井さんが作成を勧める「災害準備ノート」。東京都健康長寿医療センターのサイトからダウンロードもできる
近所どうし見守りも
災害時に身を寄せる避難所での生活は、慣れない環境で寝なければならないなど、心身への負担が大きい。新型コロナウイルスの感染にも注意が必要で、一般社団法人「地域防災支援協会」(東京)の代表理事、三平洵さんは「高齢者は自宅の建物が安全であれば、在宅避難を基本に備えてほしい」と呼びかける。
温かい食事
ガスや水道などのライフラインが寸断される可能性が高く、食料や飲料水、携帯トイレなどの準備が欠かせない。「高齢者は特に、温かい食事を取れるよう備えをしてほしい。被災で気がめいっている時も、心が落ち着きます」と三平さん。カセットコンロとともに、湯で温められるレトルト食品やインスタントのみそ汁なども備蓄したい。
備蓄品の一部を非常用持ち出し袋に入れておけば、避難所に行く必要性が出てきた場合も、速やかに行動できる。併せて、お薬手帳や避難途中に使うつえなども、分かりやすい場所に置いておきたい。
説明:三平さんや武石さんへの取材などを基に作成
家の中に物が散乱した状態では、在宅避難の妨げになる。窓ガラスに飛散防止フィルムを貼ったり、家具の転倒防止対策をしたりする備えは、地震の揺れによるケガを防ぐだけでなく、在宅避難の負担を減らすためにも重要だ。
ただ、在宅避難は外の目が届きにくく、体調を崩しても発見が遅れる場合がある。三平さんは、「普段から近所の人と互いに見守る関係性を作っておきたい」と助言する。
介護用品
「在宅で介護をしている家庭では、『ないと困るもの』を考えて用意しておいて」。セコム医療システム(東京)のケアサービス部長で看護師の武石嘉子さんは指摘する。介護用品は災害時には手に入りにくいからだ。紙おむつなどは十分あるか確認したい。
食べ物をのみ込む嚥下(えんげ)機能が衰えている人は、食べ慣れたものを3日~1週間程度分、準備しておく。お茶などを飲む際に、とろみ剤を使っている場合も同じだ。
災害時は、介護サービスや病院での診察が受けられない恐れもある。その場合、どう対応したらいいか、事前にケアマネジャーや主治医などに相談しておく必要もある。
遠方の老親
遠方に老親がいる場合、何ができるだろうか――。
東京都健康長寿医療センター研究所研究員の涌井智子さんは「実家周辺でどんな災害が発生するのか、帰省した際に親と一緒に考える機会を作りましょう」と助言する。ハザードマップなどを参考に話し合う。一時的に避難する公園などへの経路も確認したい。被害で通れない場合もあり、複数を把握しておく。親が非常用持ち出し袋に物を詰めすぎている場合もあり、背負ったり持ったりして避難できるかの確認も大切だ。
涌井さんは、「災害準備ノート」を作成し、携帯してもらうことも勧める。血液型や既往症、処方薬のほか、家族やかかりつけ医の連絡先などを記載するものだ。本人が話せない状況でも、第三者が代わりに家族に連絡を取ってくれることもあるという。
「同居をしていても、災害が発生した時に家族と一緒にいるとは限らない。高齢者一人でもいざという時に行動ができるよう、家族で防災について定期的に話し合ってほしい」と呼びかける。
◆高齢者の備え3か条
▽在宅避難が基本
▽食べ慣れたものを備蓄
▽主治医などにも相談
(読売新聞 2020年11月13日掲載「防災ニッポン 地震・災害弱者」中)
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