地震・避難の際「災害弱者」へ気配りをどうするか?

障害者や高齢者、子ども――。大規模地震などの災害時、避難で配慮が必要な「災害弱者」は少なくない。周囲の支援が不可欠だが、障害者の特性を知らなければ、逆に負担をかけることにもなる。架空のシナリオで配慮の心構えについて考えてみたい。高齢者や子どものために必要な備えのポイントも紹介する。

シナリオ1 全盲男性の安否は …自宅訪問

「この家に全盲の男性が一人で住んでいるはずよ」。揺れが収まった後、余震を警戒し、自宅から公園に向かっていた太郎(32)は、妻の花子(32)の言葉にはっとした。

 

男性とは防災訓練で顔を合わせたことがある。この地域には、障害者など避難で支援が必要な人の名簿はあるが、どう誘導するか個別の計画は策定されていないと言っていた。混乱の中、誰も男性を助けに来ていない恐れがある。

 

「大丈夫ですか」。大声で呼びかけると、中から「けがはありません」と男性の声。だが、中に入ろうにも玄関には鍵がかかっている。「安全な場所に行きましょう」。太郎が叫ぶと、男性が自分で玄関ドアを開けてくれた。

 

太郎は一安心した。だが、花子が男性のことに気付かなかったら、と思うと気持ちは穏やかではなかった。

シナリオ2  誘導しながら避難…被災の街

玄関に置いてある白杖(はくじょう)を手にした男性と歩き始めると、近所の人たちも公園に向かっていた。サイレンが聞こえ、火災の煙も見える。

「急ぎましょう」。太郎は男性の腕を引っ張った。不意をつかれた男性がよろめく。「すみません」。太郎と花子は慌てて男性を支えた。

 

「あなたの肘をつかみますから、半歩前を歩いて」。男性が言う通りに太郎は誘導する。「私が持ちます」。花子が男性のバッグを手にした。

 

道路には所々、亀裂が入り、住宅のブロック塀が倒れている場所もある。太郎は避けながら先に進む。「方向を変える時は教えてください。街はどんな様子ですか」。男性がふいに尋ねてきた。

 

「状況が分からないと、不安も大きいだろうな。早く教えてあげればよかった」。太郎は心の中でつぶやいた。

シナリオ3   把握しにくい情報…避難所

公園に着いたが、余震はいつ来るかわからず、暗くなる前に避難所に移った方が良さそうだ。幸い、スマートフォンの通信状態に問題はなく、自治体のツイッターが近くの小学校体育館に避難所が開設されたことを告げていた。

 

「行きましょう」。太郎が言うと、男性もうなずく。

 

小学校に着くと受け付けを済ませ、体育館へと入った。すでに多くの人が避難していた。視覚障害者には、伝って歩きやすいようにと、壁際のスペースが用意されていた。

だが、館内は騒然としている上、新型コロナウイルス感染防止のため、運営スタッフはフェースシールドも着けていて、声が聞き取りづらい。「掲示板は読めないし、一人では不安だな」。男性のつぶやきを聞き、太郎と花子は避難所でも男性のことを気にかけなければと肝に銘じた。

声かけで不安和らぐ

「地域とつながりがあるため、災害時も心強い」。首から下の感覚がほとんどなく、車いす生活を送る大分県別府市のNPO法人職員、神田憲治さんは、そう強調する。

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