コロナ不安が生む 差別や偏見

写真説明:京都人権啓発推進会議が製作した差別防止を訴える啓発動画の1コマ(同会議提供)

追い詰められる当事者・家族

「首都圏の大学に通う息子の感染が帰省中に判明。帰省を許したことを周囲から責められ、差別に悩んでいる」(四国在住の女性)

 

「東京都内で働いていることから、『感染している』と、通っているジムでうわさに。行くと避けられ、きちんと感染対策をしているのに悔しい」(埼玉県在住の女性)

 

今年9月、新型コロナウイルス感染症を巡る差別について電話相談を始めたNPO法人「ワールドオープンハート」(仙台市)には、感染者の家族などから相談が寄せられている。理事長の阿部恭子さんは、「心身に支障を来すほど、追い詰められることもある」と訴える。

 

感染症の大流行時は、社会の中に差別や偏見が生まれやすい。新型コロナでも、感染者や家族、医療従事者に対する差別、県外ナンバーの車への嫌がらせなどが大きな問題になった。自治体や各地の弁護士会などが相談窓口を開設しており、2020年9月末時点で47都道府県のうち37が設置した窓口には、少なくとも1076件の相談が寄せられた。長野県は、児童生徒や保護者用の専用ダイヤルも設置した。

 

「感染リスクのある物や人を避けたいという心理から、不安や嫌悪感が喚起される」。差別感情や偏見が生まれる背景を、東北大准教授(社会心理学)の荒井崇史さんは説明する。電車内で人がせきをすると嫌な気持ちを抱くのが、この心理メカニズムで、誰にも起こりうる。

 

感染予防をしている人ほど感染者を許容しにくい傾向があるという。「自分は我慢しているのに、県境を越えて遊びに来た」などとフラストレーションを感じ、攻撃に結びついてしまう。

 

「加害者にならないためには、『感染者や医療従事者などは、内集団だ』という意識を高める必要がある」と荒井さん。人は、自分が所属するグループ「内集団」には好意的で、所属していない「外集団」には対立心を抱いて排他的になりやすい。「自分も感染しうる」などと、共感することが大切という。

 

不確かな情報が元で差別してしまう場合もあり、正しい知識を得る努力も重要だ。「不安をあおるネットニュースもある。信頼のおける媒体を定め、ニュースを見るのは1日2回などと決めるのもいい」と荒井さん。医療従事者がどれだけ感染予防策を講じているかを知れば、不安の抑制につながる。

防止へ動画やセルフチェック

啓発活動も盛んだ。京都府などでつくる「京都人権啓発推進会議」は、差別防止を訴えるアニメーション動画をサイトで公開している。京都精華大の学生がキャラクターを描き、「あそこの学校の人たちは入店禁止にしないとコロナまき散らすに違いない」など、抱きがちな偏見の例も挙げる。東京都人権啓発センターは、差別しそうになった時、立ち止まって冷静に行動するためのセルフチェックを勧める。

 

ワールドオープンハートの阿部さんは、「自分が差別をしていないか常に振り返るとともに、差別をされたら一人で悩まず、すぐに信頼できる機関に相談してほしい」と話す。不安の中でも、差別や偏見の「感染拡大」が起きないよう、一人一人に当事者意識が求められている。

 

◆差別をしないためのセルフチェック

(東京都人権啓発センターの資料を基に作成)

◆差別・偏見防止3か条

▽自分も感染しうると共感

▽正しい知識を

▽発言や行動の前に立ち止まって考える

(読売新聞 2020年12月18日掲載 「防災ニッポン 感染症」おわり 生活部・崎長敬志、福島憲佑、山村翠が担当しました)

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