3.11秘話 ディズニーランド「負傷者ゼロ」の実相

ランドからシーへ夜間の1500人誘導

「このままだとランドのお客様を建物内に収容できなくなる。シーに移動させたいが、やれるか」

11日午後9時頃、当日のシーの全体責任者だった田村圭司さん(53)は、同社の地震対策統括本部から連絡を受けた。ふだんは園内で禁止されている自転車を必死でこいで安全確認が済んだ建物を見て回る。「いけそうです」と答えた。

問題は、移動のルートだ。ランドからシーに行くには通常、一度園外に出なければならないが、外は暗く、液状化していて危険だった。田村さんは「バックヤードを通ってもらおう」と統括本部に申し出た。

両園では、来園者の目に触れる場所は「オンステージ」と呼ばれている。いわば「夢の国」の舞台の上。一方で、その裏側であるバックヤードを来園者に見せることは、ご法度だった。

統括本部の事務局長を務めた阪本靖弘さん(55)らは迷わなかった。「寒くて危険な中、来園者に長距離を歩かせるわけにはいかない」。約1500人が「秘密の裏道」を通り、12日午前2時、ランドからシーへの大移動が完了した。

説明:来園者が一晩過ごした主な施設と人数

震災後、両園ではスタッフへの講習会を重ね、応急危険度判定士以外にも建物の安全確認ができる人員を大幅に増やした。「来園者を長時間、屋外で待たせたことは大きな反省点。予想できない災害に対しては備えるしかない」。増田健司・セキュリティ部セキュリティグループマネージャー(43)は言う。

帰れなかった2万人が46施設に臨泊

結局、夜になっても家に帰れない約2万人の来園者が、ランドとシーの中で一晩を過ごすことになった。

臨時の宿泊場所は、天井に装飾物がなく、一定の広さがある計46施設。

妻と当時4歳の長男とともにランドにいた東京都豊島区の会社経営者(54)は、レストラン「トゥモローランド・テラス」に案内された。飲み物は自由にもらえ、夜は温かい大豆ひじきご飯が配られた。お湯を入れてすぐ食べられる非常食。同社では当時、5万人の帰宅困難者が3日間、過ごせる食料を備蓄していた。

写真説明:震災当日に配られた大豆ひじきご飯=来園者提供

原さんが一番驚いたのが、トイレの清潔さだ。同レストランでは約1900人が過ごしたが、トイレはキャストたちのこまめな掃除が行き届いていた。園内では夜遅くまでイルミネーションがともり、不安は感じなかったという。

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