3.11秘話「釜石の奇跡」の裏に共助のリレーがあった

◆釜石東中学校と鵜住居小学校の避難状況

地域で訓練「助けられる人から助ける人へ」

釜石東中が掲げていた目標は「助けられる人から助ける人へ」。震災前には、小学校との合同避難訓練のほか、消防と連携して負傷者の搬送訓練なども行ってきた。地域住民から過去の被災体験を聞き、郷土資料館で生々しい写真も目にしてきた。同中出身の菊池さんは「どう行動すればよいのかを自分で考えるようになった」と話す。

2004年から取り組む防災教育

釜石市が防災教育に力を入れ始めたのは2004年。岩手沿岸は前年に震度6弱の地震に襲われたが、避難率が低く、危機感があった。

津波対策には各校が取り組んだ。市中心部の釜石小は、校舎は高台にあるが、浸水想定区域に住む児童が多く、「下校時避難訓練」を行ってきた。児童は通学路マップを各自で作成、避難場所を確認する。下校時に津波警報が発令されたとの想定で訓練も繰り返した。

地震が発生した時間帯は、同小の児童184人の大半が下校後だった。釣りをしていた港や遊んでいた公園などから、それぞれが避難し、犠牲者は出なかった。当時小3で友人宅にいた沢田梨水子(りみこ)さん(19)は、避難しようとしない友人の祖父母を説得し、一緒に高台に向かった。「避難場所や危険な場所を覚えていて、焦りはなかった」と語る。

子供たちの判断力と行動力を育む手本に

釜石の子供たちの行動は、教科書にも載る全国のお手本になった。南海トラフ巨大地震の被害が想定される和歌山県田辺市も、釜石の事例をきっかけに、災害時の子供たちの判断力や行動力を育む必要性に気づいたという。

学校や年齢が異なる子供同士が集うワークショップを開き、「救出した家族が重傷、園児が心肺停止だった場合、どちらを先に搬送するか」などのテーマで意見を出し合う。市教委学校教育課の上木原浩之指導主事は「子供の生き抜く力と未来の防災力を高めたい」と話す。

◆岩手県釜石市鵜住居地区
✓ 死者   458人
✓ 行方不明者 122人
✓ 被災家屋  1851戸
✓ 人口震災前 2657世帯6630人(2011年2月末)
震災後 1868世帯3772人(2020年10月末)

 

(読売新聞 2021年1月14日掲載 盛岡支局・押田健太)

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