津波後の生活再建 「お金がない」現実に直面する

写真説明:東日本大震災で甚大な津波被害を受けた被災地では復興がいまなお続く(2011年3月14日、岩手県で)

近い将来にも予想される「南海トラフ地震」などによる津波災害は、人々の暮らしに甚大な被害をもたらす。生活再建の難しさは、発生から10年を前にして、なお道半ばと言える東日本大震災からの復興の険しさが物語る。生活を取り戻すための第一歩をいかに踏み出すか。必要な備えは。架空のシナリオで考える。

【シナリオ1】自宅に津波 泥まみれ …惨状

目の前の光景に太郎(39)は言葉が出なかった。津波に関する警報が解除された後、妻の花子(37)と高台の避難所から自宅に戻ると、様子が一変していた。

 

3年前に建てた2階建ての自宅は、海からかなり離れているにもかかわらず、津波が到達し、1階部分は目も当てられない状態だった。屋内は泥だらけで、冷蔵庫などの家電製品やテーブルなどが散乱している。

 

花子は顔を覆い、しゃがみ込んだまま動こうとしない。「帰ろう」。太郎は花子の肩を抱いて立たせ、避難所に戻った。

 

近所も状況は同じだった。全員、逃げて無事だったが、自宅が受けた大きな被害に一様にショックを受けている。

 

翌日、太郎が目を覚ますと、花子はうつろな表情だった。「大丈夫か」。声をかけても生返事。眠れなかったようだ。

 

花子のことが心配だったが、自宅も気になる。太郎は一人でまた向かった。

【シナリオ2】果てしなき片付け …復旧

改めて見る自宅の姿に、前日にも増して、厳しい現実を思い知らされる。「住み続けられるのか」。不安が押し寄せた。

 

とりあえず、屋内にたまった泥をかき出そうと思ったが、道具がない上に、水道も止まったままで水で流すこともできない。途方に暮れ、しばらくぼう然と家を見つめていた。

 

翌朝、近所の何人かが、避難所の防災倉庫にあったショベルを借りて、自宅の片付け作業に向かおうとしていた。だが、太郎の腰は重かった。

 

「行きましょう。動かないと、気がめいりますよ」。そう促され、やっと立ち上がると、花子も一緒に行くという。

 

だが、2人では思ったほど作業が進まない。特に女性の花子には作業はつらそうだが、コロナ禍では災害ボランティアの応援なども限られそうだ。「今は自分たちで踏ん張るしかない」。太郎はそう言いつつも、この先の道のりの長さを感じた。

【シナリオ3】地震保険に未加入 …資金

「お金は大丈夫かな」。数日後、作業中に花子がふと太郎に聞いてきた。多額の住宅ローンが残っている上に、修繕をするにも費用がかかる。預金はあるが、ローンの頭金として使ったため、多くはなかった。

 

「義援金とかもらえるのかな」。花子がつぶやく。作業に追われる太郎に、資金確保という新たな課題が突き付けられた。

 

「そうだ、地震保険に入っていたはず」。太郎は火災保険を申し込む際、地震保険への加入も考えたことを思い出した。「でも、海から離れているから大丈夫だろうと、結局入らなかったじゃない」「そうだっけ」

 

保険証券で確かめようと捜すが、流されたのか、見つからない。市役所に聞くと、損害保険の業界団体に問い合わせれば、時間はかかるが契約内容を教えてくれるという。

 

回答が届いたのは2週間後。「やっぱり」。未加入の事実に2人の間に重い沈黙が流れた。

写真説明:内閣府が公開する南海トラフ地震のシミュレーション動画から

保険・預貯金 欠かせず

津波などの大規模災害では、生活再建に向けて公的支援金や義援金を受け取れる場合があるが、個人による備えも重要だ。

 

内閣府のまとめによると、東日本大震災で全壊した住宅の建て替え費用は平均で約2500万円。一方、都道府県が支給する被災者生活再建支援金や、日本赤十字社などの義援金は計約400万円にとどまる。

 

代表的な備えに地震保険と預貯金がある。地震保険は住宅と家財それぞれについて火災保険に付帯して入る。住宅再建の費用の全てを賄うのは難しいが、損害に応じた保険金を受け取れる。預貯金は被災時に限らず、失業や病気などの時にも役立つ緊急予備資金として、生活費の3~6か月分は確保したい。

 

被災した住宅に多額のローンが残っていれば、新たな借り入れが負担となったり、困難になったりする「二重ローン問題」に直面する。このため、被災前のローンの減免制度もある。

 

◆住宅再建には多額の費用がかかる
※東日本大震災の事例から

◆被災時役立つ お金の備え

のしかかる出費

!住宅の修繕、立て替え費用

!家財購入費

!生活費(食費、被服費、交通費、通信費など)

→公的支援 多岐に

公的支援制度は種類が多く、把握するのは簡単ではない。災害時、各地の弁護士会がサイトなどでわかりやすく紹介するため、要件や申請先を確認したい。

 

代表的な被災者生活再建支援金は、住宅が全壊するなどの被害を受けた世帯に都道府県が、最大300万円を支給する。災害援護資金は市区町村による融資で、負傷したり住宅や家財に損害を受けたりした世帯主が対象。最大350万円。

→罹災証明が必要

住宅再建の道のりは険しいものにならざるを得ない。住宅が流失した場合は、移転を迫られる可能性も否定できない。修繕するなどして住み続ける場合、使えなくなった家財を運び出したり、室内を十分に乾燥させたりする作業から、再建への一歩を踏み出すことになる。公的支援金や義援金を受けるため、被害の程度を証明する「罹災(りさい)証明書」の交付を市区町村に申請することも忘れないでおきたい。

→心のケア

被災直後や長い時間を要する生活再建の過程で、被災者は様々な心理的影響を受ける。家族との死別や自宅の流失・損壊がもたらす喪失感のほか、避難所や仮設住宅暮らしによるストレスなどだ。被災時には自分だけでなく誰もが感じるものだと、普段から意識しておくことで、いざという時に心の負担を軽減できる。信頼できる人に被災体験を話すなどして回復につなげたい。

 

(読売新聞 2021年2月17日掲載 「防災ニッポン・津波」生活部・崎長敬志、福島憲佑、山村翠が担当しました)

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