津波後「心の傷」ケアが必要となる場合も

写真説明:NPO法人「仙台傾聴の会」が2020年11月、宮城県で開いた被災者の集まり(仙台傾聴の会提供)

「大災害の後、長い時間を要する生活再建の中で、被災者は精神面で様々な影響を受ける」。兵庫県こころのケアセンター長の加藤寛さんは、こう話す。

被災後トラウマ反応は当たり前

加藤さんによると、津波などによる被災後の心理的反応として、まず悲惨な光景を目撃したことがもたらすトラウマ反応がある。被災時の記憶が突然よみがえったり、災害を想起させるようなものを避けたりする。家族との死別や自宅の損壊で喪失感、罪悪感を抱く被災者もいる。避難所や仮設住宅暮らしでストレスを感じ、不眠や体調不良が続くことも。

 

こうした反応は当たり前に起こるもので、被災者の多くは生活再建が進むに伴って自然に回復する。だが、甚大な被害などで心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、アルコール依存といった症状を抱え、専門家への相談が必要な被災者もいる。復興が進む中、生活再建が順調な人とそうではない人の差が徐々に開いていく「はさみ状格差」が生まれ、「取り残された」と落ち込む被災者も少なくない。

 

東日本大震災からの復興の過程でも、心の健康状態が悪化する被災者が見られた。東北大高齢経済社会研究センターが被災3県の約800人に2014年と20年に行った調査では、「良い」「まあ良い」と回答した割合が、計27・4%から21・3%に減少。「神経が過敏である」「何をするのも骨折りだと感じる」などと訴える人も増えた。

 

◆東日本大震災の被災3県では、心の健康状態が良い人が減っている

(東北大高齢経済社会研究センターの調査を基に作成)

心の落ち込みにどう対処したら…

被災後の心の落ち込みに、どう対処したらいいか。九州産業大教授の窪田由紀さん(臨床コミュニティー心理学)は、食事や居住空間の確保など安心できる環境を整えることが前提とした上で、被災後の気持ちの落ち込みは誰にでも起こるものだと意識し、自分をコントロールすることが大切だ、と指摘する。心に余裕ができれば、他の被災者に気を配り、話しかけることもできるようになる。「人に必要とされる存在になれば、災害による無力感から脱することもできる」と話す。

 

信頼できる人に被災体験を話すことも、自責の念や喪失感といった心理状況の克服につながる。

体験、思いを「傾聴」するNPOも

「自分の心の中を見つめることができ、少し気持ちが軽くなった」。NPO法人「仙台傾聴の会」(宮城県名取市)の集まりに参加し、東日本大震災での被災体験や自分の思いを話した女性は、感慨深げにそう言ったという。

 

同法人は、大震災の発生直後から宮城、福島両県の被災者を訪ね、お茶会などを開いて不安や悩みに耳を傾ける活動を行っている。代表理事の森山英子さんは「話すことで心の不安が軽減されれば、生活意欲の向上にもつながる」と強調する。

 

九州産業大の窪田さんは「被災時に必要な心構えを前もって知り、『心の減災』に努めてほしい」と呼びかける。生活再建の長い道のりに心の安定は欠かせない。

 

◆心のケア3か条

▽安心できる環境を整える

▽落ち込みは誰にでもあると意識する

▽被災体験を話す

 

(読売新聞 2021年2月19日掲載 連載「防災ニッポン 津波・生活再建」おわり 生活部・崎長敬志、福島憲佑、山村翠が担当しました)

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