富士山が噴火したら!最悪想定の「首都マヒ」に備える

写真説明:300年以上沈黙している富士山。新型コロナウイルス感染防止のため全登山道が閉鎖され、登山シーズンでも人けはなかった(2020年8月撮影)

国の中央防災会議作業部会の2020年初公表データからシナリオ作成

江戸中期の「宝永噴火」(1707年)以来、300年以上も沈黙している日本最高峰・富士山。だが、平安時代には300年弱(800~1083年)の間に12回噴火したとの記録も残る。次はいつなのか。予測は困難だが、ひとたび噴煙を上げれば未曽有の混乱を招きかねない。起き得るシナリオで万一の事態を考えたい。

シナリオ1 鉄道は一斉に運休する…東京

「富士山が噴火 気象庁が午後1時から記者会見」

東京・新宿の職場にいた太郎(35)は、テレビ速報に目を奪われた。どす黒い噴煙が「ゴオ、ゴオ」と激しく噴き出している。周辺地域だけでなく、約100km離れた都心にも繰り返し警戒が呼びかけられた。

最近、富士山周辺で小さな地震が続いているのは知っていたが、「まさか」という思いだった。3時間ほどたった頃だろうか。新宿の空も薄暗くなってきた。

鉄道各社が一斉運休したが、東京近郊の自宅は徒歩3時間ほどの距離だ。「仕方ない。歩いて帰ろう」。そう思って外に出てみると、風に巻き上げられた灰が目や口に入ってきた。息苦しい。数メートル先も見えない。

「日が暮れてからの帰宅は危険だ」。上司の指示で会社にとどまることにした。電話回線がパンクしたのか全くつながらない。妻子を思い、不安に襲われた。

シナリオ2 灰の街で車は立ち往生する…一夜明け

噴火から一夜明けた。花子(37)が自宅のカーテンを開けると、街は灰色の世界に変貌(へんぼう)していた。スリップ事故を起こし、立ち往生した車が道路のあちこちに乗り捨てられていた。

「こほん、こほん」。ぜんそくの長男、一郎(10)がせき込んでいる。火山灰は呼吸器系の病気を悪化させるらしい。救急車が走行不能になった地域もあるようだ。一郎が心配でならない。

スーパーに向かうと長蛇の列ができていた。カップ麺やレトルト食品は全て品切れ。「在庫はないのか」。店員に詰め寄る声が響いた。店は窓を閉めきり、換気機器も止めていた。灰を入れたくないのは分かるが、コロナ禍の中だ。長居せずに水だけ買って店を出た。

自宅に戻ると夫の太郎の姿があった。半日がかりで歩いて帰宅したという。「灰に何度も足を取られて参ったよ」。真っ黒になった顔で笑いかけてくれた。

シナリオ3 雨で停電して水も出ない…噴火続く

3日後の雨で、状況はさらに悪化した。首都圏の広域で停電が起きたのだ。湿った火山灰が送配電設備をショートさせたらしい。灰の重みで倒れた木が電線を切るケースも相次ぎ、復旧のめどが立たないという。

2週間たっても噴火はやまず、蛇口からは水が一滴も出ない。水源地が灰で汚染され、停電でポンプも動かないそうだ。当面は給水車に頼るしかない。

一部道路では積もった灰が除去されたが、緊急車両や給水車、復旧作業車などしか通行できず、相変わらず交通網はストップしたまま。物流が途絶え、日を追うごとに食材や水の入手が一層困難になってきた。

今後どうなるのか――。「ガタガタ」。また噴火したようだ。80kmも離れた富士山から空気の振動が伝わるなんて思ってもみなかった。不気味に揺れる窓ガラスに、太郎は疲れがどっと増した気がした。

(シナリオ監修 石峯康浩・山梨県富士山科学研究所主幹研究員)

富士山噴火時は大量の灰が降り積もり復旧を阻む

富士山の大規模噴火を巡っては、国の中央防災会議作業部会が2020年4月、首都圏に及ぼす影響の試算を公表した。都心部の新宿でも、降り積もる火山灰が最大10cm程度の厚さに達し、首都機能がマヒする恐れがあるとしている。

試算では、火山灰が江戸の町を襲った宝永噴火を参考に、風向や風速などを変えた3パターンを想定。降雨の有無も考慮し、交通網やライフラインなどの影響を見積もった。

被害が最大となるのは、西南西の風が吹いて降雨を伴うケース。噴火3時間後には関東一円で鉄道運行に支障が出るなど、交通網が大打撃を受け、停電や断水の恐れもある。除去が必要な火山灰は、東日本大震災で生じた災害廃棄物の10倍(約4・9億㎥)にも上り、復旧・復興の足かせになると危惧されている。

◆富士山の噴火で火山灰の影響が最も大きくなるケース(噴火から15日間で、主に西南西の風が吹き、雨が降った場合)

説明:中央防災会議の作業部会の資料を基に作成

対策としては、活発な噴火活動を続ける鹿児島市・桜島周辺の取り組みが参考になる。同市は火山灰専用の路面清掃車を配備しているほか、上水道の汚濁を防ぐため浄水場に蓋を付けるなどの対策を講じている。

写真説明:東京都心の高層ビル群の奥に見える初冠雪の富士山(2020年9月28日撮影)

111ある活火山 噴火が起きると影響が大きい

富士山を含め、国内には活火山が111ある。ひとたび噴火が起きれば、火山灰や噴石、火砕流などによって周辺に大きな被害を与える可能性がある。

比較的遠くまで影響を及ぼすのが火山灰だ。上空の風に乗り、風下側を中心に広範囲に降る。降灰中は極力、屋内にとどまり、ドアや窓の開け閉めは控える。外出する場合も、滑りやすいため車の運転は避ける。火山灰の除去では、目や鼻などに入らないようマスクやゴーグルを着用したい。

日本百名山に数えられる活火山も多く、登山中に噴火に遭遇する恐れも。事前に、気象庁による噴火警報や、48の火山で運用される噴火警戒レベルなどの発表状況を確認。入山可能な場合も万が一に備え、自治体作成の火山防災マップなどで被害の予想エリアや避難場所を調べておく。警察などに登山計画書を提出し、噴石から頭を守るヘルメットなども持参したい。

写真説明:長野、岐阜両県境の御嶽山は突然、噴火し、山頂付近にいた登山客に噴石や火山灰が激しく降り注ぎ、死傷者が多数発生した(2014年9月27日撮影)

噴火時に発生する火山現象

※写真は気象庁提供

火山ガス

硫化水素や二酸化硫黄などが含まれ、吸い込むと死亡することも。空気より重く、くぼ地や谷にたまることがある。

火山泥流

火山灰などが降雨などと混ざって地表を流れる現象。時速数十キロ・メートルを超えることも。噴火後に雨が降る時は、川などに近づかない。

融雪型火山泥流

火砕流などの熱で斜面の雪が解け、土砂や岩石を巻き込んで流れ落ちる現象。広範囲に大規模な被害を引き起こす。

◆噴火警報・予報と噴火警戒レベル

(読売新聞 2021年3月18日掲載 「防災ニッポン・火山噴火」科学部・中村直人、生活部・大郷秀爾、福島憲佑が担当しました)

 

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