富士山が噴火したら!最悪想定の「首都マヒ」に備える

写真説明:300年以上沈黙している富士山(2021年9月撮影)

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国の中央防災会議作業部会の2020年初公表データからシナリオ作成

江戸中期の「宝永噴火」(1707年)以来、300年以上も沈黙している日本最高峰・富士山。だが、平安時代には300年弱(800~1083年)の間に12回噴火したとの記録も残る。次はいつなのか。予測は困難だが、ひとたび噴煙を上げれば未曽有の混乱を招きかねない。起き得るシナリオで万一の事態を考えたい。

シナリオ1 鉄道は一斉に運休する…東京

「富士山が噴火 気象庁が午後1時から記者会見」

東京・新宿の職場にいた太郎(35)は、テレビ速報に目を奪われた。どす黒い噴煙が「ゴオ、ゴオ」と激しく噴き出している。周辺地域だけでなく、約100km離れた都心にも繰り返し警戒が呼びかけられた。

最近、富士山周辺で小さな地震が続いているのは知っていたが、「まさか」という思いだった。3時間ほどたった頃だろうか。新宿の空も薄暗くなってきた。

鉄道各社が一斉運休したが、東京近郊の自宅は徒歩3時間ほどの距離だ。「仕方ない。歩いて帰ろう」。そう思って外に出てみると、風に巻き上げられた灰が目や口に入ってきた。息苦しい。数メートル先も見えない。

「日が暮れてからの帰宅は危険だ」。上司の指示で会社にとどまることにした。電話回線がパンクしたのか全くつながらない。妻子を思い、不安に襲われた。

シナリオ2 灰の街で車は立ち往生する…一夜明け

噴火から一夜明けた。花子(37)が自宅のカーテンを開けると、街は灰色の世界に変貌(へんぼう)していた。スリップ事故を起こし、立ち往生した車が道路のあちこちに乗り捨てられていた。

「こほん、こほん」。ぜんそくの長男、一郎(10)がせき込んでいる。火山灰は呼吸器系の病気を悪化させるらしい。救急車が走行不能になった地域もあるようだ。一郎が心配でならない。

スーパーに向かうと長蛇の列ができていた。カップ麺やレトルト食品は全て品切れ。「在庫はないのか」。店員に詰め寄る声が響いた。店は窓を閉めきり、換気機器も止めていた。灰を入れたくないのは分かるが、コロナ禍の中だ。長居せずに水だけ買って店を出た。

自宅に戻ると夫の太郎の姿があった。半日がかりで歩いて帰宅したという。「灰に何度も足を取られて参ったよ」。真っ黒になった顔で笑いかけてくれた。

シナリオ3 雨で停電して水も出ない…噴火続く

3日後の雨で、状況はさらに悪化した。首都圏の広域で停電が起きたのだ。湿った火山灰が送配電設備をショートさせたらしい。灰の重みで倒れた木が電線を切るケースも相次ぎ、復旧のめどが立たないという。

2週間たっても噴火はやまず、蛇口からは水が一滴も出ない。水源地が灰で汚染され、停電でポンプも動かないそうだ。当面は給水車に頼るしかない。

一部道路では積もった灰が除去されたが、緊急車両や給水車、復旧作業車などしか通行できず、相変わらず交通網はストップしたまま。物流が途絶え、日を追うごとに食材や水の入手が一層困難になってきた。

今後どうなるのか――。「ガタガタ」。また噴火したようだ。80kmも離れた富士山から空気の振動が伝わるなんて思ってもみなかった。不気味に揺れる窓ガラスに、太郎は疲れがどっと増した気がした。

(シナリオ監修 石峯康浩・山梨県富士山科学研究所主幹研究員)

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