天気予報・土砂災害をピンポイントで予測したい

「警戒情報」解除後でも土砂災害はおきる

土砂災害は雨がやんでも安心はできない。

2020年の九州豪雨でも被害が出た。長崎県諫早市の景勝地「轟の滝」。その遊歩道で7月25日、崖崩れ(高さ約20m、幅約10m)が発生し、女性(当時40歳)と小学生の娘(同8歳)が亡くなった。同市に発表された土砂災害警戒情報が解除されて2週間後のこと。崖崩れが起きた時、雨は降っていなかった。

写真説明:崖崩れ現場の近くに駆けつけた警察官ら(2020年7月25日、長崎県諫早市で)

雨が降らなくても危険度がわかるシステムはあるが

同市は2017年からNEC(東京)が開発した「土砂災害予兆検知システム」の実証実験に参加していた。「土壌水分」の計測器を斜面に設置し、その数値から斜面の安定度を示す「安全率」を計算する。雨が降らない状態でも危険度を把握できる利点があった。

しかし、土砂災害警戒区域は市内に約2900か所もある。計測器を設置したのは同区域にある1か所だけ。2020年7月の崖崩れ現場は計測器から約20km離れた場所で、斜面の危険度は分からなかった。市の担当者は「全てに計測器を設けるのは現実的でない」と頭を悩ませている。

写真説明:竹林の斜面に設置された土壌水分の計測器を点検する諫早市職員(2020年10月、長崎県諫早市で)

過去100年データから発生確率を示す

予測の困難な土砂災害をどう防ぐのか。国土交通省国土技術政策総合研究所(茨城県つくば市)は2020年6月、降雨に依拠した土砂災害警戒情報を補完しようと、地形や地質、傾斜角などを考慮した全国の「土砂災害発生確率マップ」を作成した。マップは、過去24年間に起きた1万6000か所の土砂災害の地形などから災害発生率を算出し、100年間の土砂災害発生確率を示した地図で、各自治体で導入への検討が進められる。

開発した中谷洋明・土砂災害研究室長は「土砂災害は土質や水分量以外に地下水の動きなどが複雑に絡み合っている」と説明。「発生前にピンポイントで予測することは困難。危険度の高まりをいかに早く捉えるかが重要」と指摘する。

(読売新聞 2020年12月8日掲載 連載「減災力 予報の現場」③ ※いずれも肩書は当時)

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