天気予報・気象庁は天気をどこまで予測できるのか

九州豪雨で線状降水帯の予測ができなかったのは…

ただ、九州豪雨をもたらした「線状降水帯」の予測はできなかった。

写真説明:球磨川の氾濫で浸水した住宅地(2020年7月4日、熊本県人吉市で)

豪雨前日の熊本地方気象台

豪雨前日の2020年7月3日昼過ぎ。熊本地方気象台の統括予報官は、部下の予報官から「熊本県南部の24時間雨量は200mmでいきます」と報告を受けた。

スパコンが複数の算出方法からはじき出した予報は、いずれも200mm前後。熊本県南部に近い宮崎、鹿児島県境の山間部は400mm近かったが、山間部は大きな数値が出やすい。午後4時21分、「多いところで200mm」と発表した。

しかし、積乱雲が帯状に連なる線状降水帯の発生は予測できず、実際には400mmを超えた。

気象庁と異なる判断もあった

気象庁とは違う判断をした人もいた。7月3日午後4時、熊本県南部にある自治体の防災担当者らによるテレビ会議。気象台職員が予想雨量を「200mm」と説明すると、会議のアドバイザーを務めた元気象庁予報課長の村中明さんは「短時間で猛烈な雨が降ると200mmを超える」と訴えた。梅雨前線の動きと東シナ海に発達した雨雲から「ただごとではない」と感じていた。

「紫色」に染まるモニター

7月4日午前6時過ぎ、気象庁や各気象台のモニター画像では、線状降水帯の雨雲が熊本県南部を覆い、1時間雨量80mm以上を示す紫色に染まった。線状降水帯は3日夜から13時間も停滞した。

想定をはるかに超す豪雨。気象庁の関田康雄長官は記者会見で、「大雨警報を超える状況は想定していなかった。我々の実力不足だ」と認めた。

線状降水帯の予測が難しいわけ

なぜ、予報は外れたのか。線状降水帯を構成する積乱雲は、海上などから運ばれる水蒸気がもとになるが、海域の観測データは少ない。積乱雲の規模は台風よりはるかに小さく、それが30分~1時間程度で発達、消失を繰り返す。現在の技術で予測は難しい。

それでも豪雨の被害を最小化するには、正確な予報は欠かせない。

◆線状降水帯ができる仕組み(イメージ)

気象庁が目指していること

線状降水帯の予測に向け、気象庁は2021年度から九州沖の東シナ海に観測船を重点配備し、水蒸気量を調べて予報に生かすことを決めた。さらに全国のアメダスの約半数に当たる約690か所に湿度計を新設し、陸上の観測網を手厚くする。こうした取り組みで2022年には線状降水帯の「半日前予測」を目指す方針だ。

2020年11月18日、新庁舎で記者会見した関田長官は「これまで以上に高い成果を上げていきたい」と気を引き締めた。頻発する災害で被害をどこまで減らせるか。模索が続く。

(読売新聞 2020年12月4日掲載 連載「減災力 予報の現場」① ※いずれも肩書は当時)

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