災害時のマンション 停電・断水…管理組合どう備える?

住宅が密集する東京

写真説明:住宅が密集する東京。マンション住民にとって、災害時の停電対策は死活問題だ

マンションは、大規模な地震や風水害などで長期の停電が発生すると、エレベーターが止まるなどして、生活に大きな打撃を受けやすくなる。新型コロナウイルスの影響で、避難所での受け入れ人数が制限され、自宅にとどまる「在宅避難」が注目を集める中、管理組合は停電にどう備えるべきか、架空のシナリオで考える。

シナリオ1  全100戸 安否確認…名簿使えず

マンション3階の自宅を出て階段を下りながら、管理組合の防災担当理事を務める太郎(48)は、「しまったな」と心の中でつぶやいていた。大地震による揺れは収まったが、停電が起きている。「管理人室のパソコンも立ち上がらないだろうな」。デスクトップパソコンに、高齢者など優先して安否確認をする住民の名簿を保存していた。

案の定だった。日曜で不在の管理人室に鍵を開けて入り、パソコンの電源を入れようとするが起動しない。後から来た理事長らに「印刷もしておくべきでした」と太郎。プライバシーに関わる名簿作りが終わってほっとし、保管方法に思慮が足りなかった。

安否確認

「仕方ない」。理事長の一言で、太郎らは余震を警戒しつつ、端から順番に全戸のドアをたたき、安否確認をすることに。14階建てで約100戸。エレベーターも停止している。「高齢者が家具の下敷きになっていたら……」。不安を抱えながら走り回った。

シナリオ2 頼みの発電機 動かない…点検不足

テレビが飛ばされるなどの被害はあったが、在宅中の住民は全員無事だった。太郎がひと安心した時には日が暮れかかっていた。建物にも大きな損傷はなく、公園などに一時避難していた住民も戻ってきた。コロナ下の避難所より、マンションの自宅の方が安心だと考えているようだ。

だが、電気は復旧しない。建物玄関の自動ドアやオートロックは作動せず、出入りを考えて手動で開けっ放しにしてある。玄関ホールに情報提供用に置いたホワイトボードに、太郎は「各戸、戸締まりに注意を」と書き加えた。

ポータブル発電機が使えない

1階集会室に設けた災害対策本部には住民が不安そうにやってくる。「ポータブル発電機があったはず。スマホだけでも充電してもらっては」。理事長の言葉で発電機のことを思い出した太郎は、「パソコンも起動できたかも」とほぞをかみながら発電機を始動しようとした。だが動かない。「時々、試運転しておけば」。住民に謝るしかなかった。

シナリオ3 13階 階段で上り下り…重い荷物

翌朝も、エレベーターは停電で停止したまま。地震発生時に人が乗っていなかったのが、不幸中の幸いだった。

「水がなくなり、困ってしまって……」。13階に住む80歳代の女性がおぼつかない足取りで集会室にやってきた。階段を下りてきたのだ。

水を上層階に供給するポンプが停電で動かず、各戸は断水している。夫と2人暮らしの女性は飲料水を備蓄していなかったという。「用意しておけばよかった」

階段へ向かう

太郎が、管理組合で備蓄していた2L入りペットボトル飲料水を渡すと、女性はしばらく休憩した後、再び階段へと向かう。「水を持ちましょう」。太郎はペットボトルを受け取り、女性を支えながら一緒に階段を上り始めた。女性は途中、息を切らして何度も立ち止まる。「電気はいつ復旧するのかしら?」

女性のように困る高層階の住民は増えるだろう。「管理組合でも考えておくべきだった」。太郎は心が沈んだ。

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