コロナ下で地震発生!企業はテレワークの社員をどう守る?


写真説明:テレワークが急速に広がった今、企業の防災対策も変化を求められている

「安否確認」は出社でも在宅でも必要

企業に求められる防災対策が、変化を余儀なくされる可能性がある。新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが推奨される中、在宅で仕事をする社員も少なくないからだ。大規模地震などの災害に備え、オフィスで働く社員に加えて、在宅勤務者の安全にどう配慮し、対策を取っておくべきか。架空のシナリオで考えたい。

シナリオ1 ビデオ会議 操作に苦戦…対策本部

静かなオフィスに、スマホから不吉な音が流れた。緊急地震速報だった。「在宅の社員は無事か」。激しい揺れが収まり、太郎(36)は防災担当部署の一員として不安にかられた。緊急事態宣言の延長で、社員の多くがテレワーク中だ。

社屋の被害状況の確認を同僚に頼み、手で押さえていたパソコンで安否確認システムを開く。だが、安否を登録する社員の数は増えない。「訓練をしていたのに。通信状況が悪い地域があるのか」。念のため、社員に登録を促すよう、各部の部長にお願いのメールを送る。

災害対策本部の会議を開く必要もあるが、担当の役員や部長、社員の一部も在宅だ。「ビデオ会議システムを使っては」。戻ってきた同僚に提案された。

ビデオ会議

通信可能な人に参加を呼びかけ、システムを起動すると、パソコンの画面に担当部長らの顔が現れる。だが、役員は映らない。慌てて操作に手こずっているようだ。「慣れてもらっておくべきだった」

シナリオ2 出社社員 社内で待機…鉄道運休

ビデオ会議システムの正しい操作方法を担当役員に伝え、会議がやっと始まった。

同僚は社屋では人的被害はないと報告。太郎は在宅社員の安否確認が進まない現状を説明した。鉄道やバスの運行再開のめどが立たないとの情報も入る。「安否確認を最優先に。出社中の社員には当面、社屋内にとどまってもらおう」と役員。

会議が終わると、太郎はすぐに同僚らと備蓄倉庫へ確認に向かった。「食料や飲料水、毛布は足りそうだ」。出社中の社員が少なかったのが、不幸中の幸いだった。

備蓄品を運び出す

夕方、備蓄品を運び出し、集まった社員に渡す。「家族が心配」と1人が漏らす。

思い出したように、太郎がスマホを見ると、自宅の妻からLINEでメッセージが何度も来ていた。今春、長男が入園した近くの保育園と連絡が取れず、慌てて迎えに行ったとのこと。

「災害時の対応を事前に保育園に確認しておくべきだった」と返信する。家庭での準備不足を反省した。

シナリオ3 家に備蓄ない…食料品

翌朝までには、全社員の安否を確認できた。家族の安否確認や通信状況の一時的悪化でシステムへの登録が遅れたようだ。軽いけがはあったが、命に別条がある者はなく、太郎はほっとした。

社員宅の被災状況

各部長からメールで、在宅中だった社員宅の被災状況の報告が来る。転倒防止対策をしておらず、家具やテレビが倒れたという社員は多い。自宅建物の一部が損壊した例もあった。

大きな被害のなかった社員からも、「コロナ禍だから在宅避難をしたいが、食料品の備蓄が足りない」といった相談が寄せられた。1日分しかないという社員も。「避難所で密を避けながら、備蓄品や支援物資をもらう」といった助言をメールに書き、各部長経由で社員に送ってもらった。

午後、ビデオ会議システムで2回目の災害対策本部会議が開かれた。「社としてテレワークを推進する以上、社員宅の防災についても考えるべきなのかもしれません」。太郎の発言に、一瞬の沈黙が流れた。

テレワークどう備える

「テレワークを社の方針として導入する企業にとって、在宅中の社員の安全確保などが、防災上の新たな課題として浮上してきている」。企業などに危機管理サービスを提供する「レスキューナウ」(東京)の危機管理アドバイザー、市川啓一さんは指摘する。

自宅での対策がカギ

まず課題になるのが、社員への啓発だ。自宅周辺のハザードマップの確認や家具の転倒防止対策などの重要性を理解してもらう必要がある。耐震性の高い住宅の場合、住宅手当を上乗せするなどの動機付けをする方法もあるという。

備蓄品購入への補助

コロナ禍では、在宅避難のための備蓄も大切だ。食料などの備蓄品セットの購入を仲介する企業が目立ってきているほか、購入費を手当で補助する仕組みを検討する例もあるという。

◆テレワークで必要となる対策
備蓄品購入への補助

連絡ツールは複数用意

社員の安否確認に利用できるツールは多様化している。1995年の阪神大震災をきっかけに、多くの企業が安否確認システムを導入し、最近は社内用チャットアプリなども充実してきた。社員が安否を報告するだけでなく、会社側が指示を伝えることも可能になった。通信状況の悪化も想定し、複数の手段を用意しておきたい。

防災担当社員らが在宅中でも、通信状況が良ければ、ビデオ会議システムで災害対策本部の会議を開ける。ネット上でデータを管理するクラウドサービスで随時、社内の被害状況などの情報を共有することも。

◆テレワークで必要となる対策
連絡ツールは複数用意

市川さんは「災害時にスムーズに使えるよう、日頃から習熟しておく必要がある」と指摘。昨年は防災訓練をリモートで行う例が目立ったという。

帰宅困難者対応も不可欠

社屋内などで被災し、公共交通機関の運休で自宅へ帰れない「帰宅困難者」への対応も、不可欠だ。2011年の東日本大震災では、首都圏で500万人を超える帰宅困難者が発生したと推計されている。

企業は社員が3日とどまれる備蓄を

内閣府が2015年に策定した対策ガイドライン(指針)では、職場や最寄りの「一時滞在施設」など安全な場所に、一定期間とどまるよう呼びかけている。一般財団法人「都市防災研究所」(東京)の上席研究員、守(もり)茂昭さんは「企業には、食料や飲料水、毛布の備蓄など、社員が3日程度はとどまれる環境作りが求められている」と指摘する。

社員は徒歩帰宅ルートを事前に確認

社員は、社屋内などにとどまった後、帰宅する際の対策も必要だ。交通機関がまだ動いていなければ、徒歩となる。自宅までの徒歩ルートを確認しておきたい。幹線道路沿いでは、コンビニなどが自治体との協定で、水道水を提供したりトイレを貸したりする「災害時帰宅支援ステーション」になっている場合も。帰宅ルートにあるか調べておくといい。

◆帰宅困難者に必要となる対策
帰宅困難者に必要となる対策

(読売新聞 2021年5月16日掲載 「防災ニッポン 企業」 生活部・大郷秀爾)

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