風水害・コロナ下の避難所生活 気を付けることは


風水害などを逃れて向かう避難所での生活は、長引くほど負担が積み重なっていく。食料の確保、衛生管理、集団生活のトラブル――。新型コロナウイルスの感染防止という難題も加わった。2017年の九州北部豪雨や18年の西日本豪雨での国の報告書などを基に描いた架空の避難所生活から、もしもの時を考えたい。

1日目 コロナ感染の不安

「手を消毒して」「他のご家族と間隔を空けてください」。7月上旬の夕方、大雨・洪水警報が出て、会社員の太郎(41)ら家族がマスクをし、避難所に着くと、自治体職員にこう説明を受け、誘導された。新型コロナウイルス対策だという。

配られた毛布を床に敷き、乳飲み子の長男を抱いた妻の花子(36)、母(75)と座る。「浸水していないだろうか」。太郎は新型コロナの感染が不安であると同時に、自宅のことも気がかりだった。夜が更けて横になったが、緊張に加え、床が硬いこともあって、眠れない一夜を過ごした。

→新型コロナ対策=自宅に浸水や倒壊などの危険がない場合はとどまったり、親戚宅などに避難したりすることも考える必要がある。

避難所に行く場合はマスクや体温計、スリッパ、避難所で不足しがちな手指消毒液などを持参。マスクは基本的に着用し、手洗いや消毒を心掛ける。体温を定期的に測り、体調不良の場合は申告する。

2日目 長男が激しく夜泣き

自宅周辺が浸水していると聞き、がくぜんとする。一方で、コロナ対策を続ける必要がある。持参した体温計で毎日、検温することに。家族全員が36度台でひとまず胸をなで下ろした。

会社に「休む」と連絡し終わった頃、ペットボトルの水とパンの配布が始まった。配っているのは、同じ避難者のようだ。「手伝いましょう」。申し出ると、避難所の運営への参加を促された。避難者で食料配布やトイレ掃除などを分担すると聞き、引き受けた。

戻ると、妻の花子が「周りの目が気になり、安心して授乳ができない」と嘆く。午後には段ボールの仕切りが設けられ、喜んだが、夜になると、環境の変化からか長男の夜泣きが激しい。周囲から舌打ちが聞こえ、申し訳なく感じた。

→運営への参加=運営は、避難者自ら主体的に行う必要がある。食料の配布や炊き出し、掃除などの衛生管理、防犯といった役割分担を明確にすることで、よりスムーズに運営でき、一体感も生まれる。

運営の訓練をしておくのもいい。静岡県が開発し、運営を疑似体験できるカードゲーム「避難所HUG」などが有用だ。

→女性や子どもへの配慮=多くの人が集まる避難所で欠かせないのが、女性や子ども、高齢者への配慮だ。女性には着替えや授乳などでプライバシーを確保し、子どもには遊び場などを設定、高齢者には健康面で特に留意したい。避難直後の混乱の中では後回しにされがちだが、女性らの意見を聞き、必要な支援は自治体に依頼することが重要だ。

3日目 高齢の母の体調が心配

他の避難者たちに相談に行くと、「女性や子どもへの配慮が必要だ」との声が上がった。話し合って、乳幼児連れの母親向けのスペースを確保することに。「ありがとう」。理解してもらえたのがうれしかった。

だが、心配の種は尽きない。母が動きたがらず、太郎の脳裏にエコノミークラス症候群の不安がよぎる。

熱中症も心配だ。冷房はなく、コロナ対策のため窓は開けられて風は通るが、マスクをしていることもあり、さらに暑さを感じる。

「この生活がいつまで続くの」。母の問いかけに太郎は答えられなかった。

→エコノミー症候群=長時間、体を動かさないでいると、リスクが高まる。脚の静脈に出来た血の塊が肺などの血管に詰まり、呼吸困難などを招く。死に至ることもある。車中泊では特に危惧される。予防にはストレッチや水分補給などが有効だ。

これからの季節は熱中症にも注意が要る。心のケアも大切になる。

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