災害時「車で避難」するなら必ず確認!これだけの備え

写真説明:2016年の熊本地震では、車中泊を選ぶ被災者が多かった(同年4月16日、熊本県益城町で)

「車で避難」「車中泊避難」には危険がいっぱい

災害時の車での避難は、多くの危険をはらむ。東日本大震災では、渋滞の列が津波にのまれ、豪雨災害では車ごと水没する被害も多発する。新型コロナウイルス感染への懸念から「車中泊避難」をする人も増えている。架空のシナリオを使って、車での避難の危険性を確認する。

シナリオ1 車が水没 ドア開かず窓割って脱出!…河川氾濫

激しい雨音を聞きながら、自宅でテレビを見ていた太郎(48)が目を見開いた。画面に、近くの河川が氾濫したという速報が流れたのだ。「車なら避難所にたどり着ける」。慌ててマイカーに乗り込み、浸水した道路を抜けようとした時、エンジンが止まった。

見た目より水位があり、車はドアノブの下辺りまでつかっていた。ドアは水圧で開かず、パワーウィンドーも反応しなかった。後部座席に移動し、スライドドアを開けようとしたが、ダメだった。窓ガラスを蹴っても、びくともしない。水位はみるみる上昇し、窓の高さに達しつつあった。

「あれがあったはずだ!」。太郎は、緊急時に車の窓ガラスを割る脱出用ハンマー=写真=をダッシュボードに入れていたのを思い出した。カー用品店で何げなく買ったものだ。ハンマーで窓を割り、外へ出た。なんとか自宅に戻り、2階に座り込んだ。「早く避難していれば」。後悔が押し寄せ、膝を抱えた。

シナリオ2 ガス欠寸前で食料もない…公園断水

翌朝、太郎は小降りになったのを見計らって、避難所に逃げた。豪雨の前に、もう1台の車で仕事に出ていた妻の花子(44)と連絡を取り、落ち合った。まだ数日間は豪雨の恐れがあり、避難が必要だ。「避難所でコロナに感染しないか」。不安になった2人は車中泊をすることにした。ただ、ここA市では、避難所駐車場での車中泊は、事故の恐れがあるうえ、物資受け入れの妨げになるとして認めていない。仕方なく、高台の公園へ移動した。

公園の水道とトイレは断水で使えなかった。自宅から持ち出した食料や水は2日分ほど。車内でエアコンをつけ、窮屈ながらも睡眠をとった。翌日は激しい雨が降り続き、水没を経験しただけに移動を控えた。体が痛み、空腹感も強くなってきた。「食料を備蓄しておくべきだった」。太郎はまた、後悔に襲われた。

辺りが暗くなり、2人の不安は募った。一番の心配は、ガソリンが底をつきかけていることだ。エンジンを止め、もう一夜を明かした。幸い、翌朝は小雨だった。「食料もガソリンもない」。2人は車中泊を諦め、避難所へ向かった。

シナリオ3 エコノミー症候群?救急車で病院へ…疲労蓄積

隣のB市に住む弟の一郎(45)は、妻(43)と義母(75)と一緒に、車で近くの小学校に避難した。義母は足が不自由で「迷惑がかかる」と避難所に入るのを嫌がった。感染への不安もあり、校庭で車中泊させてもらうことにした。

B市は車中泊に備えた態勢をとっており、水や食料の提供が受けられた。同じ姿勢でいることで体調不良を起こすエコノミークラス症候群を予防するため、保健師も定期的に巡回した。しかし、避難生活も3日になり、家族の疲労が蓄積してきた。「避難所で車から現金が盗まれたんだって」。妻が人づてに聞いた話をし、不安そうな表情を浮かべた。

そんな時、後部座席で過ごしていた義母がうめき声を漏らした。振り返ると、顔色が悪く、太ももを痛そうにさすっている。足が悪いため、車からあまり降りなかったのが悪かったのか。駆けつけた避難所の職員が「エコノミークラス症候群かもしれない」と言い、救急車を要請した。「しっかりして」。一郎と妻は声をかけながら、救急車で近くの病院へ向かった。

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