「釜石の奇跡」で知られる片田敏孝氏が語る防災啓発の神髄

家族のことを問いかける

別の豪雨災害の被災地ではこんなケースもあった。避難をせず、自宅で胸まで水につかったが、なんとか一命を取り留めた高齢の女性がいた。女性には東京在住の子どもがいると聞き、「ここで亡くなっていたら、息子さんは悲しんだのではないか」と問いかけると、女性は、はっとした顔で、「逃げないとだめだったね」と語った。

納得と共感を得てこそ

災害はこれからも降りかかってくるだろう。防災教育を通して、多くの人の「納得と共感」を得たいと考える。そして、実際の行動に移してもらい、被害の軽減につなげることが出来ればと願っている。そのためには、自らの伝え方にも工夫が必要だと感じる。最近では、米国のオバマ元大統領の演説を見直し、「We(私たち)」を多用し、共感を得るための努力を参考にしている。今後も人の心を読み解きながら、防災の重要性を伝えようと誓っている。

片田敏孝氏 <プロフィル> かただ・としたか 1960年、岐阜県生まれ。東京大学特任教授。豊橋技術科学大大学院修了後、米ワシントン大学客員研究員、群馬大教授などを歴任。2003年から防災教育を始め、2012年に「釜石の奇跡」で防災功労者内閣総理大臣表彰。著書に「人が死なない防災」など。内閣府中央防災会議や中央教育審議会などに携わり、防災行政の推進に尽力する。

(読売新聞 2021年7月9日掲載 政治部・大槻浩之)

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