豪雨災害時の高齢者施設(前編)夜間に浸水したらどうなるか

写真説明:台風による豪雨で堤防が決壊し、浸水した住宅地。避難に時間がかかる高齢者施設では特に、事前の備えが重要だ(2019年10月、埼玉県川越市で)

難しい避難のタイミング 停電でエレベーターが使えないことも

災害が発生した時、高齢者施設の入所者にとって、スムーズな避難が難しいことが多い。事前の備えがなかったり、的確な判断ができなかったりすると、重大な結果を招きかねない。外部への避難が遅れた場合には、命を守るために施設の上階など安全な場所にとどまり、難を逃れる対応も必要だ。どういう事態に陥る可能性があるのだろうか。架空のシナリオで考えておきたい。

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シナリオ1 深夜1階部分に水…河川氾濫

ある地方の特別養護老人ホーム。農村地帯の集落の外れに立地し、近くには川が流れている。

この日は朝から強い雨が降り続いていた。職員の太郎(30)は「きょうはいやな天気ですね」と施設長の花子(46)に話し、窓の外を眺めた。

太郎は入所者の食事や入浴、レクリエーションなど日々の業務を進め、いつものように忙しく過ごした。午後になっても雨が降りやまなかったが、川のことは特に気にとめなかった。ここ数十年の間に氾濫したことはなく、今回も大事には至らないだろうと考えたためだ。退勤時刻が来ると太郎は帰宅した。

しかし、日が暮れてから様子が変わり始め、豪雨となった。花子は、テレビの天気予報を注視し、洪水に備えて、小学校の体育館に避難すべきかどうか迷っていた。結局「夜間の避難は危険だ」と考え、避難には踏み切らなかった。万が一に備えて、帰宅はせず夜勤の職員と共に職場に残った。

夜中に雨脚はさらに強まっていった。すでに入所者を連れて避難できないのは明らかだった。そしてとうとう、川が氾濫し、周囲に水があふれ出し、じわじわと施設1階部分にも入り込む事態となった。

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