風水害で避難するとき地域でどう助け合うか

写真説明:2019年の台風19号で大規模冠水が起きた宮城県大郷町(2019年10月、本社機から撮影)

九州などを襲った豪雨が河川の氾濫や土砂災害をもたらし、早めの避難の重要性を改めて浮き彫りにした。適切な避難行動を取るには、住民同士が声をかけ、助け合う「共助」も大切だ。だが、人間関係が希薄になりがちな今、共助の仕組みや精神は地域に、そして自分に残っているのか。架空のシナリオで省みたい。

シナリオ1 大雨 家族で避難…早朝

「何をしてる。早く避難しないと」。会社員の太郎(43)は、スマートフォンを使おうとする妻の花子(36)に声を荒らげた。前日からの豪雨で早朝、避難指示が出たばかりだった。

「ママ友たちに連絡してるのよ」。花子はSNSで知人に避難を促しているという。どなったことを謝りながら、太郎は準備を済ませ、花子と長男(6)と家を飛び出した。

大雨の中、所々冠水した道路を、同じように避難所へと向かう人たちがいる。都市部の住宅街で、住民同士のつき合いが深いわけではない。皆、不安げな様子で、ひたすら避難所へのルートを急いでいた。

シナリオ2 あのおばあさんは…避難所着

河川が氾濫し、一帯が床上浸水――。避難所に着いてまもなく、自宅周辺の深刻な状況が伝わってきた。

「近所のおばあちゃん、大丈夫かな」。長男のつぶやきに、太郎ははっとした。長男と散歩する時、よく話しかけてくれる高齢女性のことだ。一人暮らしでつえをついている。避難所の中を見渡すが姿は見えなかった。「声をかければよかった。自分たちのことで精いっぱいだった」。花子の言葉が太郎の胸に刺さる。

そう言えば、と思い出す。梅雨を迎え、自治体の広報誌に自主防災組織のことが書かれていた。年に1度、防災訓練の案内も来ていた。参加したことがなく、活動の実態も見えなかったが、「おばあさんを助けてくれているだろうか」。願うばかりだった。

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