風水害の共助 ご近所同士が声かけて避難する

写真説明:地域情報をやりとりするSNS「マチマチ」。2019年10月の台風19号時にも利用者間で活用された

逃げ遅れることがないよう早めの避難にどうつなげるか

繰り返される豪雨災害で犠牲者を出さないため、早めの避難の必要性が指摘される。だが、いざ自宅を離れるとなると二の足を踏みがちだ。足腰の弱い高齢者もいる。逃げ遅れないよう、住民同士が声をかけ、助け合う「共助」の重要性が増している。

危機感持ち 行動しやすく

「人は簡単には避難をしません。大雨警報や避難勧告だけではだめで、近所の人の声かけも必要」。広島市防災士ネットワーク代表世話人の柳迫長三さんは強調する。

柳迫さんは2018年の西日本豪雨における広島県内の被災者の体験談を集め、冊子にまとめた。「近所の人に声かけをしたら、すぐに荷物を両手に提げて出てきた。避難を迷っていたのだと思う」など、声かけが避難につながった事例が多くあったという。

最近、近所同士の声かけが避難開始のトリガー(きっかけ)として注目されている。西日本豪雨の際の避難行動について広島県が行ったアンケートを分析した広島大教授(社会心理学)の坂田桐子さんは、共助の第一歩とも言える声かけの重要性を指摘。ポイントとして「同調性バイアスを利用」「避難行動をイメージしやすくする」などを挙げる。

「同調性バイアス」とは周囲の動きに合わせてしまう心理のこと。「近所の人から『私は避難します』と言われると、危機感を持ちやすい」と坂田さん。避難所へのルートや冠水状況といった具体的な情報を伝えることで、相手は避難行動をイメージでき、実行に移しやすいという。「自分の言葉が影響力を持つことを知ってほしい。大事なのは早めに声をかけること」

SNSでも

ご近所同士の人間関係が薄れる中、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使った新たな共助も生まれている。

「川の水位が上がっている」「道路が通行止めです」――。半径1~10キロに住む利用者同士でやりとりできるSNS「マチマチ」では災害時、こうした情報交換が行われる。

月200万人の利用者の約7割は女性で、普段は子育てなどの話題が主。運営会社代表の六人部(むとべ)生馬さんは「災害時、近所にリアルな知人がいなくても情報を得られる」と話す。2019年9月の台風15号では、千葉県鴨川市の住民が「市役所の1階で充電できます」「コインランドリーは、朝から行列でした」といった情報も書き込んだ。

◆避難につながるメッセージの例

説明:坂田さんの話を基に作成

SNSの声かけは、ママ友の間でも。愛知県岡崎市の防災を考える母親で結成した団体「守ろう子どもと赤ちゃん」は3年前、メンバー同士で情報交換する無料通信アプリ「LINE」のグループを作り、約100人が登録する。8日の大雨の際には、冠水した道路の写真などがやりとりされた。代表の荒木歩さんは「信頼できるメンバーから寄せられる情報で、大雨の状況を判断できた」と話す。

防災士のかもんまゆさんは、こうした関係を生かした「ママ友避難」を提唱。「防災ママカフェ」と名付けた母親対象の講座を全国各地で開く。「警報が出された後では、小さな子どもがいる母親は安全に逃げられないと考えるべきだ。ママ友同士で事前に誘い合い、逃げる。空振りになっても、『避難所を見学できてよかったね』と、避難の練習、つまり素振りだったと思ってほしい。SNSのつながりで避難へのハードルを下げられます」と話す。

 

◆避難の声かけ3か条

▽自分の言葉が影響力を持つことを知る

▽早めに呼びかける

▽SNSで情報交換も

 

(読売新聞  2020年7月15日掲載 「防災ニッポン 風水害・共助」①)

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