風水害の共助 楽しめる訓練が必要

写真説明:東京・葛飾区の自主防衛組織「市民消火隊」の操船訓練。日本橋付近まで遠出することもある(提供写真)

花見やテント泊

東京都葛飾区の東新小岩七丁目町会の自主防災組織「市民消火隊」は、住民の参加を募って、広域避難の訓練を行ってきた。周辺は海抜ゼロメートル地帯で、荒川が氾濫した場合、最大で約5mの浸水が2週間以上も続く恐れがあるからだ。

西日本豪雨の後の2018年11月には、台東区の上野公園を目指す訓練が行われた。中高年ら約80人が近所同士、声をかけ合って集合。JR新小岩駅から総武線に乗り込んだ。途中で山手線に乗り換え、上野駅で下車すると、約1時間で公園内の西郷隆盛像の前に到着した。

同公園の標高は約20m。「ここまで逃げる必要があるんだね」。参加者の表情は真剣だったという。

同隊は、住民が広域避難をできず、自宅の2階以上に垂直避難した場合などに備え、船外機付きゴムボートも2台所有。操船訓練を年6回程度行う。川を上り下りして遠出したり、花見を組み合わせたり、1泊2日の日程で実施してテント泊をしたり。住民に人気の防災訓練で、隊長の土屋芳計(よしかず)さん(59)は「新型コロナウイルス対策を考えながら、今後も目新しさを取り入れたい」と話す。

災害発生時、共助が機能するには、住民が参加する防災訓練の積み重ねも重要だ。だが、内閣府が2017年に行った世論調査では、参加した経験を持つ人は約4割にとどまる。地域防災に詳しい大阪大教授の渥美公秀さん(共生行動論)は「防災訓練というだけでは参加者は増えにくい。楽しめる要素も必要で、祭りなど地域行事に防災の要素を加えるだけでもいい」と指摘する。

各地で様々な取り組みがあり、参考にしたい。

神戸市では、一部の自主防災組織が「防災運動会」を開催。担架での搬送やバケツリレーなどの訓練に、競技やゲームの要素を取り入れている。大阪府八尾市安中町ばら地区では、秋の「さんま祭り」を、炊きだし訓練と位置づけて、住民の有志が炭で火をおこし、サンマを焼いて、来場者に振る舞ってきた。

地域に訓練施設があれば、利用するのもいい。京都市消防局は2015年、市民も利用可能な「水災害対応訓練施設」を整備。豪雨で冠水した中を避難する危険性を体感したり、土のうの効果的な積み方を学んだりできる。

写真説明:京都市消防局の「水災害対応訓練施設」では豪雨を体験することができる(提供写真)

ゲーム感覚

「体を使った訓練だけでなく、災害時に取るべき対応についての判断力を培う頭のトレーニングも大切」。京都大防災研究所教授(防災心理学)の矢守克也さんは助言する。

矢守さんらが開発したカードゲーム方式の防災教材「クロスロード」は、「3000人がいる避難所で2000食を確保。配るか配らないか」など、ジレンマを抱えやすい設問に、参加者がYESかNOで答える。災害時、少数派の意見も考慮に入れる冷静さが養われるという。

静岡県が開発した「イメージTEN」は、災害時に直面しやすい10の課題についてグループで考える訓練。県は現在の地震用に加え、風水害用を開発し、8月にも発表する。氾濫危険水位に達したり、避難しない住民がいたりする場合の対応を考える内容だ。

矢守さんは「訓練のバリエーションを増やし、様々な人が参加しやすくすることで、災害時に他人任せにならず、一人一人が考えて行動することにつながる」と強調している。

◆防災訓練3か条
▽楽しめる要素も必要
▽地域の行事で実施
▽判断力も培う

(読売新聞 2020年7月17日掲載 「防災ニッポン 風水害・共助」③)

無断転載禁止

この記事をシェアする

オススメ記事

新着記事

公式SNS