【記者コラム】 災害避難 行動導くには

写真説明:台風10号の接近で河口近くで水しぶきが上がった(2020年9月6日、鹿児島県奄美市で)

台風10号が九州に接近していた6日夕、高齢で一人暮らしの母親に避難を促す電話をした。実家のある自治体が、高齢者らに避難を呼びかける「避難準備・高齢者等避難開始」を出したからだ。実家の建物は古く、夜になっての移動も危険だ。

だが、母親は避難をしたがらない。「大丈夫」と言い、結局、家にとどまることになった。

言葉を尽くしたが、母親が聞かなかったわけではない。むしろ、説得すべきこちらが「まあ大丈夫だろう」と思ってしまったのだ。実家は暴風域に入る予想だったが、台風の目からは離れていたため、説得する方も、危機を過小評価する「正常性バイアス」に陥った。

台風の勢力は弱まり、実家に被害はなかった。とはいえ、あの対応で良かったのかとの思いが残る。

避難行動に詳しい広島大教授(社会心理学)の坂田桐子さんに尋ねると、「離れていると現地の状況が分からず、避難を説得すべきだという自信を持ちにくくなる。風雨の様子を聞き取るなどし、説得の根拠を得る努力が必要」と指摘。さらに、普段から実家周辺の避難ルートなどを調べておき、避難方法を具体的に伝えながら促すと行動につながりやすいという。

水害や土砂災害に備え、国土交通省などは昨年5月から、離れて暮らす高齢者らに家族が電話で避難を促す「逃げなきゃコール」を呼びかけている。防災アプリやショートメッセージサービスで災害・避難情報を受け取り、電話をかける。

取り組みに参加するKDDIの調査によると、昨年10月の台風19号では、54%の人が連絡し、そのうち58%で避難行動に結び付いた。だが、電話をせず、避難にもつながらないケースも少なくない。

本紙は今春から、特集面やくらし面の企画記事「防災ニッポン」で、災害への備えを紹介している。読者に行動を起こしてもらうには、記者自ら災害への危機感を新たにする必要がある。今回の経験を通し、思い直した。

(読売新聞 2020年9月13日掲載 生活部・西内高志)

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