災害時に気をつけたい「体調悪化」「感染症」

災害が起きると、通常時のような医療サービスが受けられなくなり、衛生環境の悪化などで体調が急速に悪化する恐れがあります。台風シーズンはまだまだ続き、地震や突発的な豪雨はいつ起きてもおかしくありません。日頃から、いざという時に備えましょう。

外傷が引き金

災害時には様々な病気にかかりやすくなります。加來浩器(かく・こうき)・防衛医科大教授(感染症疫学)は「災害発生からの日数、災害の形態によって病気の種類は異なる」と説明します。

当初は災害で身体に受けた傷が原因となる病気が主ですが、避難所では感染症のリスクが出てきます。避難が長期化すると、体調や持病が悪化しやすくなります。

大規模な水害では、泥水や下水があふれ広範囲で浸水します。土壌中の破傷風菌は小さな傷口からも体内に侵入し、けいれんや呼吸困難といった症状の破傷風を引き起こします。切り傷などを負った時は特に要注意です。国立感染症研究所によると、2011年の東日本大震災時、宮城、岩手両県で計10件、震災関連の感染例が出ています。

洪水で流出した土砂が乾燥すると土ぼこりが生じるため、結膜炎も発症しやすくなります。日本眼科医会によると、18年の西日本豪雨で浸水被害のあった岡山県倉敷市では、目の充血を訴える結膜炎の患者が多くいました。避難時や泥のかき出しなどの作業時は、厚底の靴や長靴、ゴーグル、軍手などを着用し、汚水に触れたり、けがをしたりしないよう注意が大切です。

食中毒の恐れも

避難所で多くの被災者が生活するようになると、感染症や食中毒の恐れがあります。過密になりやすく、トイレなどを共用する機会が増える上、衛生面の管理も行き届かない場合があるからです。16年の熊本地震や1995年の阪神大震災では、避難所でインフルエンザやノロウイルスの集団感染が起きました。今年は新型コロナウイルスへの感染が懸念されます。

東北大の感染症研究者らによる「東北感染症危機管理ネットワーク」は、
▽食品は加熱する
▽食事前、トイレ後には手を洗う▽飲料用の水をきれいなコップで飲む
▽おむつは決まった場所に捨て、手を洗う――
などの予防策を示しています。避難所を清潔に保ち、換気することも重要です。同ネットワークは「発熱やせきなどがある場合は飛まつが周囲に飛ばないようにし、医師や看護師にすぐに相談を」と呼びかけています。

災害時は物資が不足するケースも多くあります。マスクや消毒液、ウェットティッシュは各家庭で一定量を備蓄しておくことが大切です。

薬の名前 わかるように

避難生活が長引くと、運動不足やストレス、不眠、食事の偏りなどが体調の悪化を招きます。高血圧や心臓病などの持病がある人は特に注意が必要です。避難所のトイレを敬遠し、水分補給を控える人もいます。水分の不足は脱水症状のほか、心筋梗塞(こうそく)のリスクを高め、運動不足は肺塞栓(そくせん)症につながります。こまめな水分補給、適度な運動が欠かせません。

被災状況によっては、かかりつけ医の診療を長期間受けられなくなります。別の医師の診療もスムーズに受けられるよう、既往症や薬の服用履歴がわかるカードやお薬手帳を身近な場所に保管し、いざという時に持ち出せるようにしておきましょう。

(読売新聞 2020年9月16日掲載 科学医療部・冨山優介)

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