被災後の復旧、カギは「事業継続力」

東日本大震災からまもなく10年が過ぎようとしている。この間、日本は各地で大型地震のほか、台風、豪雨等で深刻な被害を経験し、危機感が高まってきた。災害大国で暮らす以上、企業の「事業継続力の強化」はもはや日常の経営戦略の一部と言えそうだ。企業の備えは「単独」から「連携」へ、即時対応の「防災計画」から非常時を生き抜く「事業継続」へと進化し、BCP(♦)を策定する企業も増えている。対策に後れをとっている中小企業も少なくないが、貴重な被災経験を通じて得てきた知恵を通じて、災害多発時代を生き抜く方策を探りたい。

BCP
事業継続計画(Business Continuity Plan)項目等を記した計画。1970年代以降、テロや災害に直面した時の情報システム維持の観点から注目されるようになり、日本でもコンピューターの2000年問題や、相次ぐ災害等を契機に普及が進んできた。生命維持や確保に重点をおいた「防災計画」と比べて、雇用や取引先との関係を守り、損失を最小限に抑える経営戦略的な要素が強い。内閣府の「防災白書」によると、2019年時点で、大企業の68.4%、中堅企業の34.4%が策定済みだという。

38日後に復旧

「ここまで大きな津波は想定していなかった」

仙台市で産廃処理や上下水道管理事業等を営む鈴木工業の鈴木伸彌社長は、振り返る。仙台港の近くにある焼却炉などの主要設備は高さ5メートル超の津波に襲われ、機能が停止した。

思わぬ大地震だったが、2007年に起きた新潟県中越沖地震に危機感を覚えた同社は、BCPを策定して、緊急事態に備えていた。

BCPをもとに日頃の訓練で鍛えられた社員の初動は早かった。衛星電話がフル活用され社員や家族、顧客の安否確認も訓練通りに進み、上下水道事業用の設備は、3日で業務を再開した。焼却炉等は「復旧には3か月」が予想される大被害だったが、重要部品を事前に別の場所に保管していたことや、同業者との連携もあり、地震から38日後に復旧し、通常業務に戻ることができた。

鈴木社長は「2週間に1回の話し合いと、定期的な訓練を通じ、自前で作ったBCPなしに早期復旧はありえなかった」と話す。

中小企業 連携型BCPも

単独から連携へ

地域経済を担い、社員や取引先の生活を守る中小企業の防災を考える際、「被害の軽減・生命の安全」を主眼にした従来の「防災計画」だけでは不十分だ。復旧が長期化すれば、取引先が離れて売り上げ減少を招き、経営危機に直結してしまうからだ。「事業継続力」の確保は、災害大国の「経営力」の一部との認識が高まってきた。

東日本大震災で日本の製造業では、部品調達網(サプライチェーン)が破壊され、数多くの企業が事業停止に追い込まれた。この教訓から防災は「単独」から「連携」へと重点が移ってきている。大企業も「調達網全体」の維持へ本腰を入れている。デロイトトーマツグループの中沢可武パートナーは「大企業は取引先のBCPの有無だけではなく、内容の充実度を取引の条件とする流れが強まっている」と指摘する。基準に適合しない企業は取引除外も起こりうることから、中小企業にとってもBCPは標準装備の時代へ入りつつある。

しかし、策定に数か月かかるBCPは、中小企業にとって負担が大きい。そこで中小企業庁は19年、数日でも作成可能な「事業継続力強化計画」の認定制度を始めた。取引先をからめて計画する「連携型」もあり、中小企業基盤整備機構(中小機構)が策定を支援している。

見直しが肝要に

企業の被害は、災害の種類や事業環境によって様々で、BCPの想定通りに事態が進むほど、単純ではない。BCPの「ひな型」の各項目を埋めて満足したり、訓練を通じた見直しを怠ったりすれば、現実味のない「飾り」になってしまう。元内閣府防災担当企画官で、BCPガイドラインを立案した東北大学災害科学国際研究所の丸谷浩明教授は「BCPの書類を整えるよりマネジメントの中身が大事。まずは事業環境や取引先の状況把握から始めたらよいのでは」と話す。

被災時には社内の誰が重責を担うかは分からないので、全員参加での話し合いが必要だ。「重要連絡先の電話番号はスマホだけでなく、手帳に残すべきじゃないか」「被災時は隣町のあの会社に協力を頼もう」などの知恵や意見を拾い集め、BCPを作り上げる作業が被災時に生きてくる。

BCPは平時にも力を発揮する。帝国データバンクによると、BCPを策定した中小企業の23.8%が「取引先からの信頼が高まった」と答えるなど、経営への効果も表れている。「採用が好転した」事例もあるという。頻発する災害を契機に、経営戦略の一環としてBCP策定を検討する中小企業も増えそうだ。

データクラウドで分散保存

データを自分のパソコンや社内のサーバーに保管せず、外部のデータセンターに保管し、必要に応じてネットワークから引き出して利用する「クラウド」サービスが、普及している。クラウドは災害時の事業継続の面でも力を発揮しそうだ。

クラウドでは、各企業の生命線とも言えるデータを耐震性の高いデータセンター内に保管し、24時間技術者を常駐させ厳しく管理しているほか、非常用自家発電装置を設置し、停電や災害にも備えている。万が一機能が停止しても、複数のセンターに分散してデータを管理しているため、事業継続の支えとなる。インターネットが使えないと、データ利用はできないが、データそのものが消えるリスクは限りなく小さいと言える。

東京、大阪、北海道にデータセンターをもつ、さくらインターネットの沢村徹執行役員は「不測の事態でも対応できるのがデータセンターの存在意義でもある。日本では災害で機能停止した事故はこれまで起こっていない」と話す。

総務省によると、企業のクラウド利用率は64.7%(2019年)と5年で26ポイント高まっている。政府も17年5月に、管理する情報・システムについて、クラウド利用を優先的に検討する方針を決めており、官民で導入が進みそうだ。


企業のデータをクラウドで保管する「さくらインターネット」のデータセンター(北海道石狩市)

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