激化し続ける災害 正しく知って対策を

9月1日は防災の日。
自然災害の脅威は年々変化しており、
有事の際に命を守るためには、
最新の情報を知って備えることが重要だ。
そこで、日本に迫る災害の危機と今後とるべき
対策について、専門家に話を聞いた。

大原美保さん

国立研究開発法人 土木研究所 
水災害・リスクマネジメント
国際センター(ICHARM)
主任研究員 / 政策研究大学院大学 防災学プログラム 連携教授

大原 美保さん

気候変動で豪雨増街づくりも変化

「災害大国」ともいわれる日本では、2月の「福島県沖地震」や7月の「伊豆山土砂災害」など、今年も各地で大きな災害が起きています。日本で災害が多いのは地理的条件から必然ともいえるのですが、近年の異常な水害の多さは気候変動の影響が考えられます。気象庁の報告によると、大雨や1時間に50㎜以上の雨が降る短時間強雨の発生頻度は有意に増加し続けており※、それらがもたらす水害のリスクも上昇しています。
産業革命以降の人間活動により地球の平均気温が2度上がった場合、降水量が200㎜を超える日が一年あたり1.5倍に増加すると予測されています(図表参照)が、気温はすでに約1.1度上昇しているので、災害対策は待ったなしの状況といえます。
この危機的状況を考慮して、国も今後の気候変動に対応した治水施設の整備や街づくりに取り組み始めています。これまでは、過去に観測された最大の雨の量を参考に、堤防などの設計を行ってきました。しかし今後は、気候変動によって増加が予測される雨の量に対応した治水施設の整備や街づくりへとシフトしていきます。

※気象庁「日本の気候変動2020 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—」

将来予測 2℃上昇
シナリオによる
予測
パリ協定の2℃目標
が達成された世界
4℃上昇
シナリオによる
予測
現時点を超える追加的な緩和策を
取らなかった世界
日降水量
200mm以上の
年間日数
約1.5倍に増加 約2.3倍に増加
1時間降水量
50mm以上の
頻度
約1.6倍に増加 約2.3倍に増加
日降水量の
年間最大値
約12%
(約15mm)増加
約27%
(約33mm)増加
日降水量
1.0mm未満の
年間日数
有意な変化は
予測されない
約8.2日増加

「先読み」と「協力」で未知の危機に備える

このように、国も総力を挙げて災害への備えを強化している今、市民の皆さんにも「経験したこともない大きな災害が高い頻度で起きること」を強く意識していただきたいです。その上で、個人レベルで更なる対策をお願いします。
今後の災害に十分に備えるためには、科学的な知見に基づいて、災害時に何が起きるかを先読みすることが必要です。ハザードマップなどの公開情報を活用し、「地震や豪雨が起きたら自分の住んでいる地域はどうなるのか」「その時、どうしたら身の安全を確保できるのか」など、日頃からイメージしてみてください。
また、近年の災害では、情報を手に入れたり、素早く行動したりするのが難しい高齢者の方が命を落とされることが多いです。このような被害は、家族や地域住民同士で協力すれば未然に防げる可能性があります。「防災は思い合い」をキーワードに、別居している家族や周囲の方への目配りや声掛けも可能な限りお願いします。

「防災道の駅」を初めて選定!

激化し続ける災害 正しく知って対策を

いつ起きるか分からない災害には、
平時から危機感を持って備えることが重要だ。
しかし、考えることや準備するものが
多岐にわたるため、なかなか本腰を入れて
取り組めていない…という人も
多いのではないだろうか。
そこで、防災士と管理栄養士の資格を持つ
今泉マユ子さんに、防災の心構えと基本的な
考え方を聞いた。

今泉マユ子さん

管理栄養士、防災士 災害食専門家

今泉 マユ子さん

管理栄養士として病院や保育園に勤務。現在は多くの資格を生かし全国各地で幅広く講演・講座を行う。防災に関する著書多数。

気候変動で豪雨増街づくりも変化

私が防災に関心を持ったのは、東日本大震災がきっかけでした。大きな揺れが起きたあの日、我が家では幼い息子が初めての留守番をしており、外出先でパニックに陥りかけたのを覚えています。帰宅して息子の無事を確かめた後も夫や娘とはなかなか連絡が取れず、不安とふがいなさを感じました。そんな経験を通じて、私は日常に防災を取り入れることを決意したのです。
読者の皆さんの中にも、この防災の日に改めて備えに取り組もうという方が多いと思います。そんな時、周囲の人とどんなことを相談し、どんな物品をどれだけ備えておけばよいのでしょうか?残念ながらその問いには、誰しもに当てはまる「万能の答え」はありません。家族の人数や普段の行動、住んでいる地域など、生活の条件が異なるからです。しかし、災害が起きたらどうなるのか、とことん現実的に想定を重ねていけば、自分なりの答えが得られるはずです。今回は、災害への備えをするにあたって基礎となる考え方をお伝えします。

被災直後まずは命を守る行動を

まず、各種災害の直接的な影響から身を守ることが大切です。家具や家電の転倒・落下対策をしておけば、家の中の安全を確保しやすくなります。また、災害が起きる時に自宅にいるとは限りませんから、職場や学校、移動中など普段の生活圏でどのような行動をとるべきか考えてみましょう。交通機関が止まってすぐに自宅へ帰れない場合を想定し、連絡の取り方を打ち合わせておくことも大切です。

まずは命を守る行動を

飲食物の備蓄ローリングストックを心掛ける

最低でも3日分、出来れば1週間分を用意しましょう。自分や家族が1日に消費する食べ物・飲み物の量を知り、十分に備蓄しておくことが重要です。また、飲料水だけで1人1日2リットル必要といわれており、手洗いなどに使う生活用水は別途準備しておきます。
健康を維持するためには栄養バランスにも気を付けたいものです。被災地ではなかなか生の野菜が流通しないので、海藻や野菜の乾物を備蓄しておくとよいでしょう。また、ビタミン・ミネラルが豊富な野菜ジュースやトマトジュースもおすすめ。野菜ジュースでアルファ化米を戻せば「リゾット風」、トマトジュースにおろしにんにくとオリーブオイルを加えれば「ガスパチョ風」と、様々な料理に活用できるのもうれしいポイントです。
また、消費・賞味期限切れを防ぐためには、普段食べているものを少し多めに買っておき、使った分を買い足して常に一定の食料を備蓄しておく「ローリングストック」という保管法がおすすめです。

ローリングストックを心掛ける

防災グッズすぐに使えてこそ意味がある

ヘルメットやラジオ、懐中電灯など、様々な防災グッズがすでに家にある方も多いと思いますが、それぞれの使い方は分かりますか?買ったまま収納してあるとすぐに使えなかったり、電池が切れていたりすることも珍しくありません。点検を兼ねて、家族全員で家にある防災グッズを使う練習をしてみましょう。

すぐに使えてこそ意味がある

日々の積み重ねが非常時の安心につながる

今回挙げた3項目について「まだ出来ていない…」と不安になった方もいるかもしれません。しかし、今から対策を進めておけば、もしもの時にも安心して過ごすことができます。特に確認しておきたい基本的な項目をリストにまとめましたので、まずは全てにチェックが付くことを目標にしてはいかがでしょうか。
とはいえ、張り切って完璧な防災を目指しても、心理的な負担になってしまうもの。前向きに取り組めるよう、無理のない範囲で、改めて今日から災害対策を始めましょう。

チェックしてみよう!

その時どうする!? コロナ禍の避難生活

近年は地震や水害など様々な
自然災害の頻度と脅威が増しているが、
新型コロナウイルス感染症の流行により
「不特定多数の人が集まる避難所の利用を
可能な限り避けたい」と
考える人々も増えているという。そこでいま注目されている、
災害に負けない強い住宅や、もしもの時に頼れる備蓄について紹介する。

強い住まいが暮らしを守る

近年、大型災害の発生後に必ずと言ってよいほど問題になるのが、避難生活の長期化だ。当然ながら避難所や仮設住宅は、プライバシーや衛生など万全とはいえない部分が多い。暮らしの再建に落ち着いて取り組むためにも「被災後も自宅で過ごしたい」という人は増えている。
そのためにはまず、丈夫な家に住むことが重要だ。様々な脅威に対する強靭さ・回復力を「レジリエンス」といい、防災性能の高い家は「レジリエンス住宅」と呼ばれる。その条件としては、高い耐震性能を持つことだけでなく、自家発電設備や蓄電池を備えていることなども挙げられる。また、生活基盤を回復するために、住宅の保険や共済に加入しておくことも重要だ(詳しい項目はチェックリストを参照)。
住まいのレジリエンス度を上げる方法として、もしいま住んでいる家の強度に不安があるなら、耐震補強の検討をおすすめしたい。新築の場合は、ハザードマップを活用した土地選びや、地盤の強化も選択肢に入る。また、最近はソーラーパネルや蓄電池の設置について相談できる住宅会社も増えているので、予算や条件について相談してみるとよいだろう。
これらの災害対策は大きな投資が必要なケースも多いが、住む人の命や家財が守られている感覚があれば、平時からより安心して過ごせるはずだ。災害を他人事と思わず、まずは自宅のレジリエンス度の把握から始めてみてはいかがだろうか。

レジリエンス度の高い住まい 3つのポイント

災害発生前
  • お住いの耐震性能は基準を満たしていますか?
  • 津波や洪水、土砂崩れの可能性は把握していますか?
  • 地震時に敷地が液状化しやすいか把握していますか?
  • 台風などの強風に対して備えていますか?
災害後
  • 停電時でも使用可能な電源を備えていますか?
  • 既に備えている防災用設備の使用方法を把握していますか?
  • 住宅の保険、共済に入っていますか?
  • 最低でも1週間、自助努力で生活を維持することは可能ですか?

おいしい備蓄で被災後も安心

いつもと同じ食事が健康維持に役立つ

もしもの時のために食料の備蓄は十分にしておきたいが、日常的に食べない食品の期限を管理するのは意外に手間がかかってしまう。そこで注目されているのが、普段食べているものを少し多めに買っておき、使った分を買い足して常に一定の食料を蓄えておく「ローリングストック」という備蓄管理法だ。
この方法を実践すれば、災害後に品物不足が起きても慌てずに済むのはもちろん、避難生活で健康を保つのにも役立つ。不安や緊張に陥りやすい災害時は、食欲が低下してしまう人もいる。特に高齢者は日頃から栄養が欠乏気味のことも多く、被災によってさらに食が細くなり、危機的な栄養状況に陥ってしまう人も珍しくない。しかし普段から食べ慣れている食品の買い置きがあれば、多少なりとも気分が和らぎ、食事で栄養を取りやすくなるのだ。

いつもと同じ食事が健康維持に役立つ

種類豊富な常温食品お気に入りを見つけて

最近は食品メーカー各社が常温保存できる商品の開発に注力しており、和洋中の様々な料理がレトルト食品になっている。そのまま食べられるものや、お湯や電子レンジで手軽に食べられるものが多く、利便性とともに味わいも日々進化している。日頃から様々な商品を食べ比べて、気に入ったものを多めに買い置いておくとよい。
また、季節や体調によって好みが変わることもあるので、定期的に食べて味を確認しておくとより安心だ。様々なお気に入りの食品をストックしておけば、長い避難生活を前向きに乗り切る助けになるだろう。

(監修/防災士・管理栄養士 今泉マユ子)